2018年9月29日土曜日

ある対談 7

質問者3:開業している精神科医です。今日はありがとうございました。私自身が考えていることは神田橋先生が「心は複雑に、行動はシンプルに」っていうようなことをおっしゃっているので、心の中というのは基本的にごちゃごちゃしていて全然構わないと考えています。逆に心を一つにまとめようとすると、むしろ行動の方がぐちゃぐちゃしてきちゃうような気がします。それとは別に私がいつも考えていることは、どの精神科の疾患に関しても、マラソンレースで例えば100メートルダッシュみたいに最初に一気に走ってしまって、バタッと倒れてしまうような走り方しかできない人がいるということです。するとバタッと倒れてしまうのは頑張りたい自分に対して休みたい自分がすでに限界に達してしまうということですね。すると治療として先ほどB先生がおっしゃっていたような、頑張りたい自分と休みたい自分というのが融合したとしたら、半分のペースでしか走れなくなってしまうということは起きると思います。でも状況によってペース配分を行い、ちょっと速めに走ろうとか、ちょっと疲れたから休もうとかっていう自由なペース配分が出来るようになるかもしれませんね。そういった行動のバリエーションが増えていくようなかたちの関わりというのが出来れば、それが統合なのかな、と思います。私はそのような単純なモデルを考えていて、それは走ることでもあるし、うつの治療でもあるし、統合失調症の方のそういった幻聴との関わりでもあるし、そんなことをちょっとお伝えしようと思いました。
B先生:いまのお話、すごく共感できます。それで何よりもまず一番最初に大事なことは、ここにいらっしゃる方はたぶん多重人格なんてないよ、という人ではないということです。私がいったん多重人格の方たちの臨床から外れたのは、虚偽性経路を持って虚偽を言っていた人格状態がいた方たちとの関わりの中で、自分のいたコミュニティを追われた、出入り禁止にされた、ということがあったのです。だからそういう状況とは違ってここに集まっておられる皆さんは仲間だと私は思っているので、ほんとにそれだけでまず素晴らしいということを一つ申し上げたいと思います。それといまの多面的、多重的という話で、ほんとにそうだなぁって思ったんですけれども、じゃぁそのいわゆるその離散型行動状態パターンによる統合っていうのが起きにくい人たち、起きてない人たちがどのような状態にあるかということです。私は施設の子ども達をたくさん見てて、どんなに並べても彼女たちはそこにストーリーを見出すことが出来なくて、カードがバラバラに見えるんですね。そういう体験ってみなさんしたことがありますかっていうのが、その多重性の世界。それで彼女たちが例えばどういうふうに体験をしているかというと、やはりバラバラな体験をしているところはあると思うんです。バラバラな視点を持っていて、それこそピカソみたいにあっちから見た絵と、こっちから見た絵とが一緒になったのが彼女たちの世界、彼ら彼女たちの世界なんですよ。それを理解した上で私たちがそういう人たちをどのように支えていくかということなんです。