2018年9月23日日曜日

解離はいつ起こる? 周囲の人はどうしたらいいの?


こんなことも書いた。

3 解離はいつ起こる?

解離がどのような仕組みで起きるのか、いつどのような状況で起きるかは、詳しいことは医学的にもわかっていません。人間の心も体も、それだけ気まぐれなのです。人の心はいろいろな部分の共同作業で成立しています。ときどきその一部が独り歩きをしてしまうこともあり、私たちの多くがそれを体験したことがあります。酔って何かをしでかして、翌日覚えていない、とか、夜夢遊病のようになって、知らない間にお菓子をたくさん食べてしまっている、というのはその例です。違法薬物を用いて人工的に解離を作り出すという人もいます。ただし病的な解離性障害の場合は、その発症の原因となったストレスやトラウマのシーンが思い出されるような状況で解離が生じてしまうという傾向があります。昔自分を虐待した人に出会ったり、その人の消息を知ったり、トラウマを思い出させるようなシーンを夢や映画やドキュメンタリーで見たり、あるいは人が感情的になっているのを見る機会があったりした場合です。実際の対人場面できつい言葉を投げかけられたり、さらには実際にある種のトラウマを体験したりした場合にも解離が起きやすくなります。それ以外にも抑うつ気分が強かったり、酒に酔ったりした時にも解離症状が悪化することがあります。解離を持つ方は痛みや疲れやその他の苦痛を感じにくい傾向にあるため、それらが体が耐えられる閾値を超えた時にも、自分の身を守るために解離が生じることもあります。
解離が生じやすい人の場合には、これらの日常生活の危機をやり過ごすために、日ごろから準備が必要といえるでしょう。なるべくストレスを抱えない仕事や生活環境が必要で、温かく支えてくれる家族やパートナー、ないしはセラピストの存在も特に重要になってきます。そしてそれらの人との関係でいろいろな感情を体験する準備をすることが、突然の解離から身を守る方法といえるでしょう。

4 周りの人にできること
解離性障害は、その性質をなかなか一般の人にはわかってもらえないという事情があります。もうこれは解離性障害の宿命のようなものです。解離性の症状は脳のレベルでの神経回路に繰り返し生じる誤作動により起きます。例えば声が出ないという解離症状は、喉に問題があるのではなく、喉の筋肉を支配する脳の部位に起きている異常信号が原因となります。ところがそのような脳の誤作動は普通の人には起きにくいため、周囲の人たちはそれを意図的なものと考える傾向にあります。普通の生活を送っている人が、突然目が見えなくなる場合、目に異常がないなら人はそれを意図的な行動、つまり一種の演技だと考えてしまい、当人ががそれをコントロールできないという訴えをあまり信じようとしません。実はこの種の誤解は、医療従事者からも受けてしまうということがいまだに起きています。
解離性障害を持つ人の周囲の人に必要なのは、この解離症状の性質をよくわかってあげて、本人がわざと症状を作り出している、演技している、という見方をしないということです。本人が一番苦しんでいることを理解することです。解離性障害を持つ方の周囲の人がさらに気を付けるべきことは、症状の改善を急かしたり、過剰な期待をかけるべきではないということです。例えば昔の記憶を失ったという症状(解離性健忘)を持つ人の場合、周囲が様々な努力をして本人に過去を思い出させようとする努力は、多くの場合無駄に終わり、当人にとってのストレスとなるだけです。むしろ記憶の回復を待つ代わりに昔その人が体験したことを本人が望む範囲で伝て人生の年表作りを手伝ったり、あるいは健忘があっても保たれているスキルを伸ばす、といった援助が役立つでしょう。その中でふと記憶が戻ることもあり、もちろんそれは大歓迎すべきことです。