第1の反応についてはすでにエイブラム・カーディナーの戦争神経症の記載において、その概要は示されていた。そしてそれは1980年に刊行されたDSM-Ⅲにその概要が記載され、近年さらなる研究が進んでいる。PTSDの病理についての研究をリードした研究者である一人の van der Kolk 氏の著書をもとにそれを開設しよう。(Bessel
van der Kolk (2015) The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the
Healing of Trauma Penguin Books (柴田 裕之翻訳 身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法紀伊国屋書店2016年)
PTSDにおいて生じるフラッシュバックのメカニズムは、その機序が広く知られるようになってきている。そのためには通常の知覚情報の処理の経路を理解しておかなくてはならない。
通常視覚、聴覚、触覚などの知覚情報は、大脳皮質の一次感覚野に送られ、そこでおおざっぱな形で処理が行われたのちに、視床という部位に送られる。そこで出来事に大まかな意味が与えられる。たとえば森を歩いていたら、長い紐状のものが上から降ってきたとしよう。「頭上から落下する紐状のもの」とは視床が意味を作り上げる程度のレベルとして例示してある。視覚野から送られてくる情報から長い棒状、ないし紐状という形態を認識し、それが動きを伴い、それが接近してくるという情報は、これでも網膜に並ぶ個々の視神経からの情報をまとめ上げるという、かなりの量の情報処理を行った結果であることが理解されよう。
視床でまとめ上げられた情報は、扁桃核に送られるが、そこでは視床で得られた情報から「大変だ、蛇に襲われた」という反応を生む。そしてそれは視床下部へと伝達され、種々のストレスホルモンが放出されると同時に、心臓の活動が昂進し、血圧が上昇し、筋肉への血流が増大する。こうして人は闘争・逃避反応を見せることになる。ここで重要な点は、Joseph Ledeux の研究により示された、high road
とlow road の概念である。つまり知覚刺激は通常は直接的に扁桃核に伝わり、そこでアラームが鳴らされる一方では(low road)、前頭皮質に伝わった情報がそこでさらに行動の情報解析の対象になるということである(high road)。トラウマ刺激が入力された場合は、それに強く反応した扁桃核は記憶を司る海馬を強く抑制することにより、その記憶の定着を抑制するのだ。