前頭前野に話が移る前に。VDK先生の本で、私が知らなかったのは、トラウマでは視床の機能そのものも阻害されるということだ。つまりは長い紐のようなもの、という認識すら出来ない可能性があるのだ。
ところでこのMFPCは人間で最大に発達している部位だが、ここを働かせて、冷静に自分の心や身体や世界を見渡す力を「マインドフルネス」だ、と言っている。彼らしい割り切り方、あるいは単純化だと思うが、ちょっと矛盾しているという事情がある。MFPCはいわゆる脳の「アイドリング状態」、デフォルトモードで活動する場であるが、マインドフルネス瞑想とは、デフォルトモードに陥りやすい心をいかに何事かに集中させるかという瞑想である。とするとマインドフルネスはこのMFPCを働かせないトレーニングというニュアンスがあるのだ。理論的に考えれば、ということである。これは矛盾している。デフォルトモードって、人の心にいいの、悪いの、という話になってくる。しかしまあVDK先生のおっしゃりたいことはよくわかるつもりである。
続けて第5章「体―脳の連結 body-brain connection」この次に出てくるのが、いわゆる「ポリベーガルセオリー polyvagal theory」自律神経に関するちょっとややこしい理論だが、VDK先生なりの理解の仕方を学べそうだ。
1994年、Porges ポージスという学者が考え出したこの理論。もともとはダーウィンの理論に端を発しているという。要するに自律神経とは交感神経と副交感神経。この二つは常にバランスを取っている。私も良くやるが、息を吸い続けていると脈拍が上がり、ゆっくりはくと今度は下がる。吸気時には交感神経の刺激、呼気時にはその反対。これが常に綱引きをしている。HRVという値が在り、要するに heart rate variability 脈拍数がどのように変動するか、という値だが、これは高いほどいい、という。つまりいつも脈拍が一定、というのは、一件よさそうで、実は交感神経、副交感神経の綱引きがちゃんと行われていないという意味では不健康だという。どうだろう、ボリベーガルの説明に、ここから説き起こすというのは、VDK先生はさすがだ。