2018年8月4日土曜日

解離―トラウマの身体への刻印 15


4章「生き延びることの解剖学 (the anatomy of survival)」あたりを読む。
 VDK先生の本のすごいところは、彼が脳科学をどのように自分なりに理解し、消化しているかを惜しげもなく教えてくれるところである。サービス精神が旺盛なのだ。たとえば脳幹と大脳辺縁系を合わせて「感情的な脳」と呼び、他方大脳皮質は「理性的な脳」とする。後者は人間でめちゃめちゃ発達している、ということは人間は大変に理性的なしかし動物ということになる。そしてこの理性を与えてくれる大脳皮質、特に前頭葉は、時々機能停止を起こすという事実にも言及する。そしてp.58あたりにミラーニューロンの話が出てくる。ある人はこれを「ニューラル WiFi 」と呼ぶという。これも絶妙な表現だ。他人の心が無媒介に自分に伝わるという意味である。
 ここら辺のVDKさんの脳の部位とその機能の比喩が素晴らしい。まず彼は視床はコックさんだという。どういう意味か。それは視床は大脳皮質から送られてくる情報を一気に統合して、「何が起きているのか」という意味を作り上げるという。沢山の具材から一つの料理という形あるものを作り上げる。ただしそれはあまり練り上げられたものではない。
 例を挙げよう。森を歩いていたら、ひも状のものが上から降ってきたとしよう。視床が意味を作り上げるのは、このレベルだ。視覚野から送られてくる情報を集め、長い物体を認識し、それが上から接近してくるという動きを伴う。視床としてはこれで精いっぱいだ。何しろ視神経の細胞から送られてくるパズルのピースは途方もない数だ。それを合わせるためには、高いレベルの情報処理がいるからである。とにかくありあわせの材料をまとめてお皿の上に盛るという働きをする。これがコックさんというわけだ。
 そしてその次に起きるのが、扁桃核という「煙探知機」の働き。つまり視床からの情報を見てピーンときて「大変だ!」という騒ぎを起こす。上から降ってきたひも状の物体は「蛇に違いない!」というわけだ。
 さてその僅か後に働き出すのが、内側前頭前野(MFPC)という名の「見張り塔 watch tower」。こちらは冷静に全体的な判断を行う。「よく見れば蛇じゃなくてただの木の枝じゃん! 焦りは禁物!」というわけだ。
視床 = コックさん
扁桃核 = 煙探知機
内側前頭前野 = 見張り塔
見事な比喩だ。