2018年7月29日日曜日

解離―トラウマの身体への刻印 9

私と同じ不安を抱いている人はいないのだろうか?
逆走している台風12号。このまま寒冷渦に沿って日本列島の周りをぐるぐる何度もまわらないという保証があるだろうか。

友田明美先生の「子供の脳を傷つける親たち」を引き続き読んでいる。
P.77以降この書に書かれていることは、精神科医としてはぜひ知っておかなくてはならないことだ。多くの研究者が、多くの犠牲者の協力を得ることで得られたデータである。
 虐待を受けた子供では内側前頭前野や背外側前頭前野の体積が顕著に縮小していること。前者は感情や思考のコントロール、行動抑制に関係している。後者の障害は抑うつ気分を招いたり、素行障害を招いたりするという。
 私が知らなかったのは、虐待を受けた子供で、一次視覚野(視覚情報がまず最初に飛び込んでくる脳の部位)の容積の減少が見られるということである。ある研究ではこれはワーキングメモリーに関わる問題であるという。というのもある記憶を短期間保持する場合に、視覚的な情報に依存する場合が多く、一次視覚野の体積の減少はこの機能を低下させるというのだ。さらに興味深いこと。虐待がどの年齢に起きたかにより、脳のどの部分が委縮するかという「感受期」が知られているという。それによれば記憶に関わる海馬は3から5歳、脳梁(左右半球をつないでいる部分)は910歳、前頭前野は1415歳であるという。ここで少し想像をたくましくするならば、幼少時のトラウマは海馬の機能不全を介して解離の病理をより生みやすいであろうということだ。あともう一つ興味深かったのは、虐待により脳は萎縮するばかりでなく増大もするという。特に暴言を聞き続けた子供は、聴覚野の一部が増大するが、それはそこで正常に行われなくてはならなかった神経線維の刈り込み(剪定 pruning)が損なわれているためであると説明されている。ウーン、今日は勉強になった。「トラウマの身体への刻印」とは、具体的にはこのようなプロセスを経ているのである。