私は思うのだが、トラウマが身体に刻印される、というのはやはり正確ではない。トラウマは脳に刻印される。それが身体症状につながるのだ。結局は脳なのだ。鬱で体がきつくなるのだってやはり脳が身体の感覚を統制する力が低下しているからである。トラウマの「脳への刻印」という言い方が一番正確である。
ということでこのテーマについて論じる際、一番私たち臨床家にとって衝撃だったのは、トラウマにより、脳の部位が大きくなったり小さくなったりするという現象なのである。脳にはたくさんの細胞が詰まっている。そんなに細胞が増えたり減ったりするのだろうか?トラウマを受けたくらいで脳の部位が小さくなるということなどあるのだろうか? これがそうらしい。もちろんトラウマだけではない。マインドフル瞑想で脳の一部の容積が大きくなる、などということも言われたりしている。私の考えでは実はここにはグリアが大きく関係していると思う。グリアとは、神経細胞を取り巻き、栄養を送り、支えている、神経細胞より何倍もの数を誇る細胞で、神経膠細胞と呼ばれている。膠、とは「にかわ」のことで、要するに糊だ。皆さんが錠剤をのむとき、有効成分が糊で固めてある。それで大きさを調整して飲みやすくしているのだ。神経膠細胞も同じような役目をしている。このグリアが実は脳において意外以外にも大きな働きをしているということがわかり、日本でもベストセラーになっている。もうひとつの脳
ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス) 新書 – 2018 (R・ダグラス・フィールズ (著), 小松 佳代子 (翻訳)。実は私も最近読んで興奮した。
ということでトラウマによる脳の質量の変化。これもベストセラーの、友田明美先生の「子供の脳を傷つける親たち」(NHK出版新書)をもとに復習しよう。虐待を受けた子供で前頭前野内側部、右前帯状回の容積が減少しているという所見(p.77)。