2018年7月25日水曜日

解離―トラウマの身体への刻印 5


 
VDKさんの本がなかなか届かない。それをもとに依頼論文を書こうと思っていたのに。アマゾンなのになあ。来ない時は来ないんだ。そこで時間つなぎにいろいろ妄想を膨らませよう。DIDの成立の理論で少し脈がありそうなのが、1997年にパットナムが言い出した、いわゆる「離散行動モデルdiscrete behavioral model」 というやつだ。これをForrest 先生という人が数年を経て、眼窩前頭皮質 orbitofrontal cortex との絡みで論じた論文がある。(Forrest, K (2001) Toward an Etiology of Dissociative Identity Disorder: A Neurodevelopmental Approach. Consciousness and Cognition 10;259-293) といってもかなり前の論文だけどね。
簡単に言うとこの眼窩前頭皮質(眉間の奥にある脳の部分、共感とか情緒交流などの話によく出てくる脳の部位。以下OFC)の機能が、虐待により非常に損なわれ、そのことにより行動依存的な自己像が統合されず、それがDIDの病理を生むという。DIDとはこの部分の失調、というわけだ。そして、例えば矛盾するやり取りの際に「側方抑制lateral inhibition」が生じることで統合できないというのだ。なんだこりゃ? 何かすごそうな概念である。側方抑制。全く意味が分からないが。ヤフー知恵袋によれば、「知覚に関するニューロンの性質の一種であり、
視覚について最初に報告されています。側方抑制は、一つのニューロンが刺激されたとき、その周囲のニューロンがパルスを発生するのを抑制することを意味します。視覚では、物体の境界を認識するのが容易になるという効果になります。物体が網膜のような二次元に投射された場合、物体の境界というか物体の淵で、光のコントラストが生じることが多いのですが、このようなコントラストの認識が容易になります。」あ、あのことか。ある体験を持つとき、その輪郭を際立たせるようなメカニズムのことだ。こんな例を挙げよう。二卵性の双子の姉妹がいる。しかもとてもよく似ている。親しい人は二人を別々の人として体験するために、かなりの側方抑制を行うだろう。例えば顔の輪郭について、その際の部分を強調して体験することで、「二人はよく似ているけれど、よく見ると全然違う」。ここにOFCが関与しているとしよう。もし側方抑制が十分でないと、いつまでたっても二人を区別できない。では今度は一人の人間が、異なる顔を見せるとしよう。昨日との違いは、側方抑制の低下により強調されず、いずれも一人の人間として統合されたイメージに向かう。この場合は側方抑制が抑制される必要がある。そう、統合に必要なのは抑制の抑制というわけだ。ではいつも同じ人と思っていた人が異なる側面を急に見せたら? いつも優しい父親が全く異なる凶暴な側面を見せたら? 脳は一生懸命側方抑制を抑えることで、「両方とも同じ父親だ」と体験するだろう? でもそれが限度を超えたとしたら? 脳はおそらくそこで二人を別人と捉えることは出来ない。その代りこちらを別モードにするかもしれない。つまり体験する方の主体に別モードを準備するということになるのだろうか? それが解離ということだろうか?