2018年7月31日火曜日

解離―トラウマの身体への刻印 11


 VDKさんの本が来たが、とても分厚い。少しずつ読んでいこう。しかし452ページもある。日本語訳をした人も大変だったろうな。柴田裕之(やすし)さんというベテランのサイエンス系の翻訳者だ。本はVDKさんの自叙伝といったところがある。どのようにトラウマの問題に興味を持ったか、から説き始めるのだ。そのなかで32Pあたりになると、トラウマを追った人が、もとの場面に引き寄せられるプロセスが描かれている。彼がこの現象に興味を持ったのは、すでに1980年代である。一部の患者さんがトラウマ体験を語るときに非常に生き生きとすること、トラウマを与えた相手に再び引き寄せられること、トラウマから離れたときにものすごい空虚さを覚え、DVを含まないような恋愛関係が退屈で仕方なくなってしまうという。要するにトラウマへの嗜癖の問題だ。1970年代に Richard Solomon という人がいわゆる逆説的嗜好 paradoxical addiction という問題に取り組んでいた。結局はエンドルフィンの問題だ。脳内麻薬物質。苦痛な体験のときに脳内に出る麻薬物質が、ちょうど薬物をやったときと同じようにして人を虜にしてしまう。ちょうど皮膚の下に麻薬の入ったチュ-ブが植え込まれ、痛みの体験のときにそこから麻薬が放出されるとしよう。すると痛みが快感に代わってしまい、嗜癖につながる可能性がある。実際に慢性的な痛みに対して医師が処方した鎮痛薬がもとで麻薬中毒になる人がアメリカではたくさんいる。日本では決してないことだが、アメリカで親知らずを抜いたときに、歯医者さんがこともなげに「タイラノール#3」という麻薬入りの鎮痛剤を三日分出してくれたことがある。何かの激痛に苦しめられたときのために大事にとっておくうちにごみと一緒に捨ててしまったが、脳内麻薬物質はそれに似たようなことを、脳が勝手にしてしまうのだ。