2018年5月14日月曜日

精神分析新時代 推敲 77

現代のモーツァルトの一人として、私はビートルズのメンバーだったポール・マッカートニーのことを考える。彼の作曲による大ヒット曲「イエスタデイ」ができた経緯については良く語られる。彼は就寝中に夢の中でメロディーが浮かび、慌ててコードを探してスタジオで完成させたという。イエスタデイのコードというのは実は結構複雑で、私も学生時代に人が歌う伴奏を頼まれて大変な目にあったが、夢の中にメロディーが出て来たということは、無意識にそれが作り上げられたという以外に可能性はない。ポールはあまりにも自然に浮かんできたメロディーなどで、別の誰かの曲ではないかと思い周囲に聴かせて回ったが、誰もこのメロディーを知らないと言われ、やっと自分のオリジナル曲だと認識しましたとも述べている。彼の音楽的才能がここに表れていると思うが、彼の頭の中にあったたくさんのメロディーの断片がうまくつなぎ合わされて生成され、それが一つの曲となって芸術的な価値をもったものとしてひとりでに結晶化されたというわけだが、先にも出てきた「新無意識」の力のすごさ、そこでのダーウィニズムが最終的な勝者として一つの完成された曲までも選び出してしまうということは非常に興味深い。
 
ただし私がこれまでに行った議論に従えば、夢の内容には全く意味がないのかと言われてしまいかねないが、実はそうではない。夢の特定な内容が最終的にダーウィン的に選択される以上、そこに何らかの力が加わっているはずで、ただその力の具体的な内容が不明なだけである。例えば作曲の例のように、そこに審美性という力が加わっている可能性もある。無意識の中にはメロディーの美しさを判断するシステムが存在し、そこが関与することにより、美しいメロディーが最終的に生き残っている可能性があるのだ。ところが一般的な夢の場合にその力がどのように働いているか不明な場合が多い。ただしその中に、比較的その存在が明らかなのが、トラウマ体験の反復に向かう力である。すなわち夢の内容には、過去に被ったトラウマの内容を反復するような内容のものが頻繁に選択されるということがある。その場合は、夢の内容は自由な組み合わせによる創造性という性質をむしろ失い、過去の体験の具体的な内容をかなり忠実に反映したような内容が繰り返し、あたかもフラッシュバックのように体験される傾向にある。それは新無意識としてのニューラルネットワーク中に存在する「ストレンジアトラクター」として、つまり夢の断片の自由な結合が失われて入り込んでしまう罠のような形で、あるいはそこに断片がはまり込みやすい鋳型のような形として存在し、その内容が選択的に選らばれてしまうということが生じている可能性があるのである。

心はディープラーニングを行っている

私自身は心のネットワーク的な在り方やそこでのダーウィン的な運動、さらには新無意識という概念を把握するのに一番の近道は、脳をディープラーニングを行うシステムとして理解することであろうと思う。