これまでの話を少しまとめよう。ただしここには私自身の推察や想像がかなり入る。
トノー二の提案した情報統合システムは意識を生むための基盤となる。意識内の意識部分は情報統合システムがあれば、あとは自動的に析出してくる。要するに意識というのは情報が統合され伝達されるようなシステムが出来上がったら、そこに自然と生まれてくるという考え方である。この辺はスチュアート・カウフマン Stuart
Kauffman がその著書 “Reinventing
the Sacred”(聖なるものの再発明)などを通して述べている自己組織化の議論である。ここで詳しくは論じないが、簡単に言えば我々が行う意識的な活動においては、何が意識上にのぼり、発話されるかなどについては正確な秩序など見つからず、ランダム性と創造性に満ちた非常に複雑なプロセスが絡んでいるということである。そしてそこにある種の法則があるとしたら、それは以下に述べるような、一種のダーウィニズム的な進化が絡んでいるということである。
ちなみに以下に何冊かのカウフマンの著書を紹介する。
Origins of Order: Self-Organization and
Selection in Evolution. Oxford University Press,1993 (⇒ 邦訳:「自己組織化と進化の論理 :
宇宙を貫く複雑系の法則」スチュアート・カウフマン著;米沢富美子監訳、日本経済新聞社、1999年)
At Home in the Universe : the
search for laws of self-organization and complexity . Oxford University
Press, 1995 ( ⇒ 邦訳: 「カウフマン、生命と宇宙を語る :
複雑系からみた進化の仕組み」スチュアート・カウフマン著 ;
河野至恩訳、日本経済新聞社、2002年)
あとは未訳だ。
Investigations. Oxford University Press,
2000
Reinventing the Sacred: A New View of
Science, Reason, and Religion. Basic Books, 2008
Humanity in the Creative Universe. Oxford University Press, 2016
次にお話ししたいのが心における適者生存の原則、あるいは心のダーウィニズムというテーマである。ウィリアム・カルビン William
Calvin という学者の「How
Brains think 脳はいかに考えるか」という、かなり前の本があるが、そこで著者は心の活動が常にダーウィニズム的な原則に従っているという事実を描いている。脳の中では様々な表象や思考の断片が離散集合して、その勢力範囲を競っている。一種の生存競争のようなものだ。そしてその中で強ものが大勢を占めて勝ってしまう。一つ例を挙げるならば、少し前にトランプとヒラリーさんが、米国の大統領選で争った。そして予想しないような事態が展開してトランプさんが勝ってしまった。その詳しい経緯はわからず、おそらくさまざまな偶発事た生じてあの結果となった。これも一種のダーウィニズムでしょう。その動きは一種のランダムウォークのようなところがある。ランダムウォークとは、ブラウン運動をする花粉の小さな粒がこういういろんな動きをするわけであるが、英語では drunker’s walk (酔っぱらいの歩行)とも呼ばれている。脳の中ではこういうことが起きているのではないかということを神経ダーウィニズムは言っているのだ。実は我々の心はこれが各瞬間に起きている。私がこの文章を書いている時に頭に浮かんできた単語、スピーチをするときに話す言葉の一つ一つがこのようなダーウィニズムの結果として決定されていくというところがあるのだ。