3. 日常生活における治療者としての「キーパーソン」
治療者は常に、患者さんの住む家庭の内外に、治療上大きな役割を果たす人物の存在があることに気づくことがあります。その人物は父母のどちらかであることも、学校の教師、恋人や配偶者、職場の上司などのこともあります。これらの人々は患者さんの行動を間近かに見る機会があり、その異変にいち早く気づく可能性があります。その場合患者さんを専門家のもとに連れていき治療の機会を与え、自らも治療的な対応を取り、状況の改善のために手助けしようとします。また患者さんの思いを代弁して第三者に伝えるなど、治療の協力者として様々な立場から支援を行う人々です。
このようなキーパーソンの存在は、患者さんの孤独感や疎外感を軽減し、他者への信頼を回復させるきっかけにもなります。特に重要なのは、これらのキーパーソンは、患者さんが幼いころ持てなかったであろう理想的な養育環境のやり直しの機会を与えている可能性があるということです。多くの場合患者さんはキーパーソンに対する配慮や遠慮を保つため、その役割は子供人格になったときの親代わり等に限定される傾向があります。そのためにキーパーソンの多くはまるで親や保護者のような気分になり、パートナーを可愛かったりいとしく思ったりするものです。キーパーソンの一部は人をケアしたいという欲求を持っている場合も少なくありません。それが患者さんのニーズに一致する傾向にあります。
ただし患者さんが彼らを頼りにする中で、愛着と依存欲求が高まり、蓄積されていたフラストレーションがその人に向かうこともあります。それが始まると、際限なく要求する交代人格や人格状態が現れ、キーパーソンとなる人物は疲弊し、追い詰められてしまいます。
治療者がこの事態に気づいた際には、要求に応え続けるのではなく、自らの限界を示し、その人が提供できる支援の内容を整理して伝えるよう、キーパーソンに助言することです。患者さんの要求をどこまでも満たそうとする姿勢は、かつてその人が親密な他者との間で繰り返してきた服従的態度の再現であり、彼らの苦しみを追体験させられている状況です。支配―服従の関係性に留まり続けようとする患者さんの心性を健全なものに変えていくために、キーパーソンと協力し合うことが必要です。患者さんは互いに与え合い満足を得るという対等な対人関係を持ったことがあまりありません。キーパーソンとの関係の改善は、患者さんの対人関係に本質的な変化をもたらすのです。