2018年5月3日木曜日

解離の本 23


3.原家族によるトラウマの理解

家族にとってこの障害を受け入れるためには、患者さんがその原因と考えられるトラウマを体験している可能性があるという事実も同時に認めなければなりません。人間の体験するトラウマには事故や天災によるものも引き起こされるものですが、最も深刻なものは、人によってもたらされたものです特に信頼している、あるいはすることが運命づけられているような家族から与えられたトラウマは、人を信頼するという私たちの持つ最も重要な機能を奪いかねないからです。
現在では家庭内での虐待が広く論じられ、解離の病理との深い関係も知られるようになったため、家族は身内に解離性の病理を有する者がいると認めることに強い抵抗を覚えます。解離の症状を持つ子供を抱えた両親は自分たちの子育てを否定されたと感じ、困惑、自責、憤りなどを覚え、「我が子のためによかれと思い」「懸命に」「誠実に」「しつけのために」という一心で子育てをしてきたと主張したい思いに駆られます。
治療者はこのような家族の訴えを否定せず、出来るだけ決めつける態度を控えて、中立的な態度で耳を傾けます。家族状況や親子関係で生じるトラウマに、単純な加害-被害関係をみることには慎重であるべきです。患者さん自身も必ずしも自らの育った状況を虐待とは結びつけて考えてはいないものです。
2章で述べたような親子関係のトラウマについて、家族にも同様の理解が得られれば理想的ですが、親自身がそれまでの自らの生き方を否定しかねない観点を受け入れることには、相当な困難が伴うものです。それを求めるよりは、加害的状況を作り出している家族と物理的に距離を取り、患者さんが自分自身について客観的に考えられるような条件を整えることが優先されることもあります。
患者さんと家族を引き離すべきかどうかの判断は、極めて難しい課題です。明らかな加害-被害関係がある場合を除き、家族へ説明や情報提供を心掛け、できる限り理解を深めてもらう努力をすべきでしょう。患者さんの年齢や心理的自立度、家族を取り巻く現実的かつ心理的状況などを総合的にみて、いくつかの選択肢を双方に提示することもあります。患者さんが成人している場合は、とりあえず家族と付かず離れずの距離にアパートやマンションを借りて住むという方法もあります。