2018年4月10日火曜日

解離の本 18


第3章 治療構造の在り方とその工夫

1.はじめに

いかなる心理療法においても、その土俵となる枠組みが必要です。それを治療構造と呼びます。そこには治療を行う場の施設や部屋の環境、面接頻度、時間枠などの、外的、現実的な条件のみならず、治療者の態度や方針といった無形の条件も含まれています。
治療構造の考え方は、精神分析では非常に重視されます。以下に治療構造を守るかは、精神分析的な治療が安全かつ確実に進んでいくために非常に重要であると考えられます。治療状況がいつも予定通り行われ、そこに大きな変化や曖昧さが伴わないことが患者さんにとっても非常に重要なファクターであると考えられています。
一般に心理療法は精神分析の考えを多く受けついていますので、治療構造を重視する立場は多くの治療者が支持しています。それに治療構造が守られることは、治療者側にとってもとても大切であり、またありがたいことでもあります。治療者は多くの場合、スケジュールに従って患者さんたちに会い、それを一定の収入源にしてもいます。患者さんが来たり来なかったり、治療時間が患者さんの都合で遅れて始まったり、長引いてしまうことは治療者にとっても、また構造を守って来談するほかの患者さんたちにとっても大きなストレスとなるのです。
この治療構造が守られるということは、患者さんの苦しみが比較的軽く、生活に余裕がある場合には、さほど問題にされません。社会適応のレベルが高い患者さんたちはこの治療構造を非常によく守る傾向にあります。時間に遅れることもほとんどなく、時間が来たら帰宅し、無断キャンセルもなく、支払いも滞りないような治療関係では、治療構造を話題にすること自体にあまり必要性が生じません。そしてその構造化された時間の中で話される内容に集中することが出来ます。
これらを前提としたうえで考えるならば、解離性障害の患者さんの場合には、この治療構造は比較的大きなテーマとなることがあります。解離性の患者さんとの治療がしばしば面接外に持ち出され、一旦定まったかのようにみえた構造が揺るがされる傾向があるからです。ある意味では、前回と異なる人格部分が受診する場合などは、たとえ開始時間が守られているとしても、構造上非常に特殊な事態といえるでしょう。ただしすでに述べたように、治療構造を守ることは、ある程度は「治療者側の都合」であり、患者さんの側に治療構造を維持すること以上に緊急な事情が生じている可能性があります。その意味では、構造は患者さん個人個人により異なり、個別に成立するものだというスタンスが必要です。そのため治療の初期ではその人のペースを尊重し、面接頻度やセッションの時間も本人の希望を取り入れつつ話し合えるとよいでしょう。安心感を育むためには、早急な構造化を強いない方針が有効なこともあります。