2018年4月6日金曜日

解離の本 17


 さてここまでお読みになって、「では抑圧とはなんだろう?」 とお考えになった人はそれだけで大正解です。精神分析で言う抑圧とはフロイトが考え出したものです。私たちが意識レベルで考えたくないことに対して行う心の働きとという意味です。つまりこの抑圧と無意識という考えはセットになっています。なぜなら抑圧されたものは無意識という、意識できない心の部分に押し込められる、というのがフロイトの説です。ということはAさんの心にとって意識できない別人格Bさんの心は、フロイトの説では、Aさんの無意識にあることになります。なぜなら彼の説では、そこにしか行き場所がないからです。ところがAさんの無意識は、やはりAさんに属しているということになりますね。ということはBさんの心はAさんが抑圧しているもの、Aさんの心の別の部分、Aさんが意識したくない心の部分、ということになります。そしてこの理論ではAさんとBさんは結局は一人であり、お互いにお互いを意識しないようにしている、ある意味では正反対の性格を持った心の部分ということになります。二つの心の話をしているはずなのに、結局一つの心の話になってしまう・・・・。これは矛盾しているし、不都合ですね。しかしDIDに対するこのような考え方は、実は今でも存在します。フロイトの作り上げた精神分析の世界では特にそうです。
もちろん別人格の中には、主人格が扱えず、意識したくない部分が反映されていることもあります。たとえばAが人に対してノーと言えない傾向があるとしたら、Bさんははっきりとした意見を持ち、言わばAさんの部分という風にも考えられます。この様に交代人格の意識や感情が患者さんの抑圧が反映されたものであるという見方は、患者さんの全体状況を理解する上で役に立つこともあります。しかしそれがすべての状況に当てはまるとは限りません。患者さん本人には交代人格と全く異なる考えや感情があり、交代人格のそれとはしばしば相容れないという実態に目を向けることが、症状をより深く理解する上での助けとなります。