2018年3月5日月曜日

解離の本 その3


2.日常生活を脅かす症状の数々
患者さんが日常生活において症状と自覚しないまま見過ごしてしまうことの多い現象には、下記のようなものがあります。いずれも急に始まり、急に終わる傾向にありますが、何日かかけて徐々におさまる場合もあります。(この、あたかもスイッチがオン、オフされるかのような症状の出方は、解離の一つの特徴と言えます。)

・朝目覚めると部屋の様子が変わっている、誰かが出入りしたような跡がある、購入した覚えのない持ち物や日用品が増えている、誰かと食事したらしい店のレシートがみつかり、記憶のないメールやラインのやりとりが履歴に残っていたり、削除された形跡があったリスる。

交代人格の出現を伴うDIDでは、しばしばご本人の気づかないうちに別人格が行動するようになり、生活に異変が現れます。家族や周囲の人々に指摘を受けて気づくこともあり、何らかのトラブルに発展して初めて明らかになることさえあるのです。
こうした現実的な問題に前後して患者さんの内面にも様々な変化が現れます。身体症状として次のような体験をもつこともあります。

・ふとしたきっかけで、頭の中が騒がしくなる。ざわざわした音が絶え間なく聞こえ、大勢の人々が話し合っている声がする。耳を澄ますと、どうやら自分のことを責めたり怒ったりしているらしい。時には自分の内側から話しかけてくる人の声がはっきりと聞こえる。

・突然耳が聞こえなくなり、声が出なくなる。全身が脱力し、体を起こすことができずに寝た切りになる。活字がバーコードのように見えて、文字が読めなくなる。あるいは手は動くのに文字だけ書けなくなる。急に話し方を忘れてしまい、「あー、うー」というような声しか出せなくなる。

・目の前の景色が歪み、足元の地面が柔らかくなったように感じ、うまく立っていられなくなる。話している相手の姿が小さく縮んで見えたり、急に大きくなったりする。外の世界から色が抜けたように暗くなったかと思うと、燃え盛っているように真っ赤になる。

これらの症状の改善を求めて医師のもとを訪れても、統合失調症など他の疾患と誤診されることも未だにあるようです。視覚や聴覚に関わる異常について、何度調べても身体の疾患や異常が発見されず、原因不明のまま返されてしまうこともありえます。
同じような症状が子どもの頃からあり、長期化している場合には、ご本人がそれを普通のこととして特に違和感なく過ごしていることもあるようです。幼児期から児童期に多くみられるイマジナリー・コンパニオンの存在もその一つといえるでしょう。例えばそれは、こんなふうに起きています。

・ひとりでいると、いつの間にか部屋に友だちが遊びに来ている。一緒に絵本を見たり、話をしたりして過ごすうちに気づくといなくなっている。何日かするとまたどこからともなく表れて、しばらく一緒に遊んでくれる。

イマジナリー・コンパニオンは一過性に表れてその後消えてしまうこともありますが、その存在が本人の中で影響力をもつようになり、日常的な関わりが増え行動を共にするようになってくると、DIDの交代人格としての性質を帯びてきます。

これまで述べてきたような症状とは異なり、トラウマ記憶のフラッシュバックが繰り返し起きることで、異常に気づくこともあります。

・何の前触れもなく、過去の出来事の場面が思い浮かび、恐怖に襲われる。動悸がして過呼吸状態となり、意識を失いかける。体のあちこちに痛みが走り、苦しさで身動きできなくなる。

特定の場面が何度も目の前に表れ、あたかもそれが今起きているように感じて度々恐怖に襲われても、患者さん自身は必ずしもそれをトラウマと結びつけては考えていないことも多いのです。一方でかつて自身が体験した出来事との関連にうすうす気づいてはいても、その記憶を想起し、第三者に語るのを恐れている場合もあります。