2018年3月27日火曜日

解離の本 14


3. トラウマの取り上げ方

解離性障害にはトラウマが深く関連していることが多いのは確かです。ただしアセスメントや治療開始の時点では、トラウマの存在や内容は必ずしも明らかになっていません。生育歴の記憶を辿ってもすぐには想起されず、むしろその時期の記憶には空白が見つかることがあります。そして「どうしても思い出せない」という期間には、トラウマに関連する事象が起きていた可能性があります。この段階で無理な想起を促す必要はなく、治療に安心して来られるよう手助けするほうが優先されます。
トラウマの想起に抵抗を示す人に対しては、むしろその抵抗感を取り上げて話し合います。苦しい記憶に目を向けるのはどんな人にも辛いものですが、治療で起きる抵抗感には過去に体験してきた対人関係の傷つきが影響しています。自分の語る内容を拒否され否定されるのではないかという不安、他者に理解されないという不信感があります。その訴えを否定せずに耳を傾け、治療でも同じことが起きるのを恐れている場合はそれを共有します。このやりとりが患者さんの警戒感を緩和し、トラウマ記憶の想起を後押しするのです。
抵抗や不安に対し無理な開示を強要すれば、その侵入的な態度はかつてのトラウマの加害者との関係を想起させ、患者さんの心を追い詰めます。それは過去の対人関係の反復となり、トラウマの再演となる危険があります。治療の初期ではその人のペースを尊重するのが何より大切です。
  
別人格からの情報を得る

ちなみに初診の段階で別人格の協力を得ることで、侵入的になることなく、トラウマの存在の手がかりを得ることもありえます。私たちがしばしば体験するのは、異なる人格のうち、ある人はトラウマを受けた記憶を有し、あるいはそこにアクセスすることが可能であるということです。その場合は上述のトラウマの開示の強要とは異なった、比較的理にかない、侵襲性の低いやり取りが可能となります。以下のようなやり取りをご覧ください。

[省略]


同伴者からの情報を得る

患者さん本人からトラウマの情報を得る際には以上に述べた諸点に注意を払う必要がありますが、家族や同伴者からの情報も時には非常に有用になります。初診の段階では出来るだけ患者さん本人とは別に家族や同伴者と話す機会を設け、患者さんの過去の社会生活歴やトラウマの存在について率直に情報を得る必要があります。