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精神分析関連のセミナーに参加している若い心理士や精神科の先生方の表情を見ると、自分の30年前の姿を思い出す。私も同じような情熱と期待を持って慶応の「精神分析セミナー」に応募し、受講したのだった。その当時は慶応大学医学部の助教授であった小此木啓吾先生が絶大なリーダーシップを取り、精神分析を広める運動を担っていた。彼のグループが主催する精神分析セミナーは、今なお第一線で活躍する当時の若き精神科医や心理士を魅了していたのである。
小此木先生の近影といったらこの写真である |
本章はここから少し小此木先生の思い出話となる。私と先生との出会いは、1983年からの精神分析セミナーへの参加がきっかけである。私たちのクラスは「3期生」と呼ばれた。つまり1981年にセミナーが始まって、3年目というわけである。人数も10人程度だったと思う。藤山直樹先生、浜田庸子先生、島村三重子先生、柘野雅之先生、佐伯喜和子先生といった先生方と同期である。きっかけは、その時大学の精神科で精神分析の勉強会を主催なさっていた磯田雄二郎先生に、精神分析を本格的に学びたいと相談したことである。すると先生が「それならオコさんに電話してみるよ。」と気軽に応じてくれたのだ。オコさん、とは小此木先生の愛称である。磯田先生は今でもサイコドラマの権威としてご活躍中であるが、その時の私はこう思ったものだ。「オコさんに夜中に電話を出来るなんて、なんとすごいんだろう。」といっても「オコさん」は夜中に最も活躍するというのは一種の都市伝説化していた。彼は夜中になってもお弟子さんを呼び出してスーパービジョンをしていたという。小此木先生は一体いつ寝ているのだろう?と不思議がる人もたくさんいた。
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