2018年1月12日金曜日

愛着理論と発生論 やり直し 1

この論文、ずいぶん放っておいた。やっと手が回るようになった。忘れているので最初から書きなおしつつ見直さなくては。締切も近い。発生論って、まじめに考えたことは一度もなかったな。この論文のおかげだ。

愛着理論から見た発生論

愛着理論から見た発生論が本稿のテーマである。両者は人間の心の成り立ちに関する理論という意味では密接な関係を有しているはずである。ところが精神分析の歴史では、両者の間にある種の乖離が見られてきた。本稿ではその事情について振り返るとともに、本来あるべき姿としての発生論、すなわち愛着理論に基づく発生論について論じたい。

1.発生論の起源

まず発生論 genetic theory とは何か。それは「心がある起源を有し、そこから徐々に、運命づけられた方向に展開していくという理論」である(Auchincloss and Samberg, 2012)。米国の自我心理学者 Merton Gill & David Rapaport (1959) は、発生論について、いわゆる漸成説 epigenetic theory もこれに相当するとし、次のような四つの特徴を有すると述べている。「第一に,すべての心的現象は心理的な起源と発達を持っている。第に,すべての心的現象は心的な資質に起源を持ち,漸成説的な方向に従って成熟する。第に早期の心的現象の原型は後期のものに覆われてはいても,なおも活動的となる可能性を持っている。第四に,心的発達過程において早期の活動可能性のある原型が後期のすべての心的現象を決定する」。もちろんそこに環境は影響するが、その影響は二次的、副次的ということになる。
 精神分析理論はその出発点からこの発生論的な見地に立ったものと言えよう。小此木(2003)によれば、フロイトのリビドーの発達に伴う精神性的発達論、つまり口愛期から肛門期、男根期、性器期と至るプロセス、Rene Spitz,R のオーガナイザーモデル,Margaret Malher の分離個体化,Anna Freud の発達ライン, Eric H. Erikson の心理社会的漸成説,Melalie Klein の妄想・分裂ポジション,抑うつポジションなどはすべてこの流れの中で理解できる。小此木先生はここに Donald W. Winnicott の絶対的依存から相対的依存へ,未統合から統合へ,という理論も含めている。
これらの発生論がどの程度、実際の乳幼児の観察に基づいたものと言えるかについては議論が分かれるところであろう。フロイトはリビドー論に立脚した発生論を案出したが、それはフロイトなりの人間の臨床的な在り様の観察と理解から生まれたといえる。しかしこれらの発生論はいずれも実際の乳幼児の観察データに基づいたものとは必ずしも言えなかった。

Auchincloss, E. L. and Samberg, E. (2012). Psychoanalytic Terms and Concepts. Yale University Press; 4th Revised edition.
Rapaport, D. & Gill, M.M. (1959) The Points of View and Assumptions of Metapsychology. Int.J. Psychoanal. 40: 153-162. (鹿野達男訳 超心理学の観点と仮説-精神分析研究7(3):8 5-89, 1960.)
小此木他編 (2003) 「発生論的視点」の項目 精神分析学事典 岩崎学術出版社.