しかし論文書くのは・・・・しんどいなあ。これも運命か。
発生論における Winnicott,
Kohut の貢献の特異性
しかし精神分析的な発生論の中には、後に論じる愛着理論に直接結びつくような論点を含んでいたものもあった。それらの代表として前出の Winnicott と米国の Heinz Kohut を挙げたい。小児科医として長年臨床に携わった Winnicott が描き出した精神分析理論は、実際の乳児の観察に基づいたものであり、フロイトや Melanie Klein の欲動論的な理論とは全く独立したものであった。Winnicott の心の発達理論は、母子の間でどのように子供の自己が生成され、それが母親の目の中に自分自身の姿(「分身 double」(Roussillon, 2013)を見出す作業を通したものである点について論じたものである。母親は子供の分身をその心に宿すとともに、自分という、子供とは異なった存在を示す。それにより子供は自分と母親という異なる存在を同時に体験していく。その際 Winnicott は乳児の心に根本的に存在するものとして、フロイト流の攻撃性や死の本能を想定しなかった。その代わり彼が重んじたのが赤ん坊が持つ 動き motility であった。すなわち動因としてはそこに外界や対象への自然な希求を重視したのである。
このような点に着目した
Winnicott はその発生論において、「一人の赤ん坊というものなどいない」という表現を用い、乳児は常に養育者と存在することの自然さを言い表した。そして同時に他者の不在や過剰なまでの侵入についてその病理性を論じたが、その路線は後に述べる Bowlby の系譜に繋がる発達論者と軌を一にしていると考えていいだろう。
同様の事情は
Kohut の理論にも言えよう。Kohut の登場は精神分析の歴史の中では極めて革新的なものであり、その真価はそれが結果的に愛着や母子関係等への研究を含む発達理論への着目をさらに促したことにあるとされる(Schore, 2002, 2003)。Kohut が「自己の分析」 (1971) において論じた自己対象 selfobject の概念は、きわめて発達心理学的な意義を内包していた。成熟した親は、子供に対して自己対象機能を発揮する。そうすることで、母親は未発達で不完全な心理的な構造を持った幼児に対する調節機能を提供する。Kohut はそれを自己対象関係の与える「恒常的な自己愛的な安定性 homeostatic narcissistic equilibrium」と表現し、それが自己の維持に不可欠なものとした。
さらに発達理論との関連で重要なのがミラリングの概念である(Schore, 2002)。発達理論によれば、生後二ヶ月の母子が対面することによる感情の調節、特に感情の同期化は乳児の認知的、社会的な発達に重要となる。そしてこれが Kohut のミラリングの概念に符合し、Trevarthen (1974) はこれを一次的な間主観性 primary
inter-subjectivity と呼んだのであった。このように
Kohut が概念化した母子の自己対象関係と、その破綻による自己の障害は、発達理論ときわめて密接に照合可能であることがわかる。後者においては母子との関係における情動の調節の失敗としてのトラウマやネグレクトが、さまざまな発達上の問題を引き起こすことがわかってきている。その意味では Kohut はトラウマ理論の重要性を予見していたと言えるだろう。
Schore, AN. (2002) Advances in Neuropsychoanalysis, Attachment Theory, and Trauma Research: Implications for Self Psychology. Psychoanalytic Inquiry, 22: 433-484, 2002.
Schore, AN. (2003) Affect
Dysregulation and Disorders of the Self “(W.W.
Norton & Company, Chapter 8.“The Right Brain as the
Neurobiological Substratum of Freud’s Dynamic Unconscious.”
Trevarthen, C. (1974), The
psychobiology of speech development. Neurosci. Res.Program Bull., 12:570–585.
Schore, A.N. (2011). The Right Brain Implicit Self Lies at the Core of Psychoanalysis. Psychoanal. Dial., 21:75-100.
Schore, A.N. (2011). The Right Brain Implicit Self Lies at the Core of Psychoanalysis. Psychoanal. Dial., 21:75-100.
Kohut, H. (1971) The
Analysis of the Self. Int. Univ. Press, New York.(水野信義、笠原嘉監訳、自己の分析、みすず書房、東京、1994)
Kohut, H (1966) Forms and Transformations of Narcissism Journal of the American Psychoanalytic Association, 14:243-272
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Roussillon,R (2013) Winnicott's
Deconstruction of Primary Narcissism. In Donald Winnicott today
edited by Jan Abram(New library of
psychoanalysis)Routledge, pp. 270-290.