2018年1月17日水曜日

パラノイア 推敲 8

あれからずっとフロイトのパラノイアについて考えている。やはり源泉はフロイトそのものという気がする。
有名なドラのケースの中の一文を再び引用する。「自己非難から自分を守るために,他人に対して同じ非難をあびせるこのやり方には,否定できない自動的なもの(something undeniably automatic, etwas unleugbar Automatischesがある。その典型は,子どもの『しっぺ返し tu quoque arguments, Retourkutschen』に見られる。すなわち,子どもたちを,嘘つきとして責めると,即座に,『お前が嘘っきだ』という答えが返ってくる。」(SE.35, 邦訳 297頁)
つまり相手から責められたら、(それを否認して)同じ事を相手に返すことが、普遍的な人間の性質だと述べている。でもこれはフロイト自身の心の動き方を告白しているようなものともいえる。そして彼の人生にはその影がちらちら見えるのだ。いくつか思い出してみよう。

  •   フロイトはユングに対して「あなたは父親殺しをしようとしている」と責めた。でもこれはフロイト説を用いるならば、自分のリビドー説を信じようとしないユングへの、フロイトの激しい怒りの「しっぺ返し」ということになる。
  •    フロイトは息子たちに医師になることを禁じた。彼らが父親殺しをするようになることを恐れたからだ。これはフロイト説に従えば、将来息子が自分より強くなってしまった場合に彼らに抱くであろう攻撃性の、先取りされた「しっぺ返し」ということになろう。
  •    ドラの場合、フロイトはドラに見捨てられたというが、実はフロイト説に従えば、ドラをフロイトが先に見捨てたことに対するドラの側のしっぺ返し、ということになる。でもフロイト自身はこう考えなかったようだ。
  •    エディプス関係にある息子が父親を殺そうとするという理論。フロイト理論に従えば、父親が最初に息子を殺そうとしたと考えるとつじつまが合う。
  もちろんこれらについてことごとくフロイトは否定するであろう。これらのいずれにもしっぺ返しの原則は働いていないと主張するに違いない。そしてそれはそうかもしれない。フロイトの理論が極端であるならば、私がここに書いていることもすべて極端だということになる。ただここには少し怪しいロジックがある。