Mindfulness(以下「M」と表記)とは注意深さ、留意することを意味する。だからMとはヘンな言葉だ。Be mindful, that・・・ という表現は、~を心にとどめよ、という意味である。するとMとは、ある種の覚醒とか視野を広めること、高次の視座を獲得するといった特別の意味を担っていたと言えるだろう。Mとは呼吸に意識を集中し、雑念が浮かんだら批判することなく流し、再び呼吸へと向かう。呼吸法の時は例えば7秒かけて吸い、10秒かけて吐く。それを意識しておこなう。瞑想の場合には普通の呼吸でいいが、Mの場合は呼吸に意識を集中するのだ。
ここでMの要点をまとめておく。Mの中核にあるのが呼吸法ということになる。何しろ吸うのも吐くのも7~10秒程度、というのがいかに遅いかが分かるだろう。それがすでに注意を一点に集中することへ向かわせる。これほどゆっくりの呼吸というのを私たちはしないから、自然と意識が呼吸に向かうのは当然かもしれない。そしてその間は少なくとも嫌なことは考えないことになる。ここがポイントだ。
ここで脳のネットワークの問題が出てくる。DMN(デフォルトモード・ネットワーク)とTPN(課題陽性ネットワーク)と呼ばれるもので、両方はお互いに相手を抑制する。つまり両方が同時に興奮するということはないわけだ。DMNはいわばギヤがニュートラルに入っているような状態であり、精神のどこにも焦点がない、ということだ。あるときの回想、白日夢などを行うときにその部分が興奮しているという。そしてTPNは何かを意識的に集中して行うときに興奮する。
さてここからがややこしい。DMNの機能をつかさどるのは、扁桃体、海馬、後部帯状皮質(PCC)、内側前頭前野(mPFC)。記憶の情緒部分は扁桃体から、時空的部分は海馬から来る。PCCはそれを統合してmPFCが実際にそれを回想する。これらの四部位が活躍する。
TPNはこちらも四つだ。島、体性感覚野、前帯状皮質ACC、そして後背前頭前野DLPFC。TPNでは内部感覚が島を通して、外部感覚は体性感覚野を通して体験される。その両方の体験に働いているのが、DLPFCである。
さてDMNとTPNは両方同時に興奮しないという点が重要だ。つまり呼吸に意識を集中することでDMN=嫌なことの回想を抑えることが出来るのだ。さてこの、TPNをなるべく保つことでDMNを抑えるという作業は、練習により習得することが出来るのだ。問題は、DMNとTPNのバランスをいかに上手くとるかということらしい。クヨクヨ思考はDMNが過剰に働いていることであり、それは精神衛生上よくないということが分かっている。すると要はいかに心がDMNに過剰に陥ることを防ぐか、ということが問題なのだ。