人間関係の基本としての win-win 状況
そもそも人と人はどのように関係するのか。「彼とは気が合う、話が合う」とはどういうことか。それは両者がある種の心地よさをともにしている状況、今風の言い方をするならば、ウィンウィンであるということである。阪神ファンの応援席に行けば、すぐに仲間になれるだろう。阪神が勝てば一緒に盛り上がり、負ければ一緒に慰めあう。阪神という球団について熱く語る者どおしは当然「話が合う」だろう。また恋人同士は、お互いを深く知り合うことが快感となるから、カタク結ばれるわけだ。さてウィンウィンは一種のファンタジーであることは分かるだろう。自分の求めるものを相手も求めているというファンタジー。二人は運命共同体であり、相手は私の喜びを喜びとし、自分も相手の喜びを自分の喜びとする。会社同士が合併したり契約を結ぶ場合も同様だ。また店と顧客だってそうである。270円のサンドイッチを持ってレジに並ぶ。向うは売りたいしこちらは買いたいから商品の購買は両者にとってウィンウィンとなり、店員は「有難うございました」と言ってくれる。こちらも空腹を満たすためのサンドイッチは270円の対価を払っても惜しくない、自分にとって有利な買い物だ。
ところがウィンウィンはまたある種の臨界状況でもある。両者の利害のバランスがちょうど取れた付近で商人の値段が決められている。ところが臨界状況は容易にどちらかに傾いてしまう。両者のバランスが崩れていれば、たちまち商品を求めて客が殺到し、あるいはその商品は見向きもされずに在庫の山となり、会社に損害をもたらす。ウィンウィンはそのようにかなり主観的で、危うげで,刹那的なものである。それは容易にルーズ・ウィンに傾いてしまう。そしてそのときに顔を出すのが、例のパラノイアである。