愛着と精神分析 1
愛着理論は精神分析の中で特殊な位置づけと共に発達してきた。それは精神分析の最早期から、ボウルビイやスピッツらによりその基礎が築かれていたものの、そしてそれはフロイト自身の著作の中にその多くのヒントが与えられていたにもかかわらず(Emde, 1988) 精神分析の歴史の中では、長い間傍流扱いされてきた。これは精神分析理論の多くが乳幼児期の心性を扱つていたことを考えるならば、実に不思議なことと言うべきであろう。20世紀後半になり、英国でボウルビーに学んだメアリー・エインスワースが緒理論における画期的な研究を行ない、メァリー・メインやエムディらによリひとつの潮流を形成するに至つて、愛着理論は精神分析の世界において確たる地位を築いたと言えるだろう。しかしなぜそれは、精神分析の本流とも言うべき緒理論からは一定の距離を保ったままであるとの観を抱かせるのであろうか?そのひとつの理由は、愛着理論がフロイトやクラインの分析的なモテルを用いることのない、独自の方針を打ち出したからと言えるだろう。ボウルビィは乳幼児を直接観察し、その実証データを集めることから出発した。それは分析理論にもとずいて乳幼児の内的世界を想定し、それを理論化したメラニー・クラインやアンナ・フロイトとは全く異なるものであった。クラインやアンナ・フロイトが、フロイトの欲動論を所与として出発したのに対し、ボウルビイは実際の乳幼児のあり様から出発したのである。