2017年11月18日土曜日

愛着と精神分析 2

ウィニコットの貢献
精神分析プロパーの中で愛着の問題をその高みにまで持ち上げたのは英国の精神分析家ドナルド・ウィニコットである。小児科医として長年臨床に携わったウィニコットが描き出した愛着理論は、実際の赤ん坊の観察に基づき、しかもフロイトやクラインの欲動論的な理論的な影響をまったく無視した独自のものであった。ウィニコットの心の発達論は、母子の間でどのように子供の自己が生成され、それが母親の目の中に自分自身の分身 double を見出す作業を通したものであるとした(Roussillon)母親は子供の分身を宿すとともに、自分という、子供とは異なった存在であることを示す。それにより子供は自分という存在と、母親という異なる存在を同時に体験していく。その際ウィニコットは乳児の心に根本的に存在するものとして、フロイト流の攻撃性や死の本能を想定しなかった。その代わり赤ん坊が持つ motility を重んじた。すなわち動因としてはそこに外界や対象への自然な希求を重視したのである。
このような点に着目したウィニコットは愛着論者の筆頭としてすらあげられるべきであろう。「赤ん坊というものなどいない」というやや過激な表現で、乳児は常に養育者と存在することが自然であるという彼の発言は、同時に他者の不在や過剰なまでの侵入についてその病理性を論じた。その路線は後に述べるボウルビィの系譜に繋がる発達論者と軌を一にしていると考えていいだろう。