2017年6月13日火曜日

項目 1 自己開示

自己開示[600字]

自己開示は主として精神療法場面における治療者の介入ないしは振る舞いとして論じられ、治療者のパーソナルな情報が、意図的に、あるいは無意識的、ないし偶発的に患者の側に伝わるという事態をさす。自己開示はフロイトの提唱した精神分析家の守るべき匿名性との関連で、その治療的な問題点や可能性が様々に論じられている。フロイトは分析家がブランクスクリーン(何も映っていない幕)であることが、転移を発展させるうえで重要と考えた。治療者の姿が患者にとって見えない位置にあることで、治療者の言葉は独特の威厳や重みを持つことが多い。しかし現代の関係精神分析の文脈では、治療者が自らの主体性をいかに用い、必要に応じていかにそれを表すかという問題が極めて重要視されている。それに従い自己開示をどのように捉えるかは臨床家により非常に異なる見解が聞かれるのが現状である。ただし精神分析を離れた一般の心理療法場面では、過剰な自己開示、すなわち治療者が自らの自己愛を満たすためにことさら自らの体験や意見を表現しやすいという問題も存在することを認識しなくてはならない。治療者の匿名性の維持と自己開示との間のバランスは、治療状況に即した形で保たれるべきであるという考え方が最も妥当といえよう。