2017年4月25日火曜日

トラウマと精神分析 ④

 第3点目は、解離症状を積極的に扱うという姿勢である。これに関しては、最近になって、精神分析の中でも見られる傾向であるが、フロイトが解離に対して懐疑的な姿勢を取ったこともあり、なかなか一般の理解を得られないのも事実である。解離を扱う際の一つの指針として挙げられるのは、患者の症状や主張の中にその背後の意味を読むという姿勢を、以前よりは控えることと言えるかもしれない。抑圧モデルでは、患者の表現するもの、夢、連想、ファンタジーなどについて、それが抑圧し、防衛している内容を考える方針を促す。しかし解離モデルでは、たまたま表れている心的内容は、それまで自我に十分統合されることなく隔離されていたものであり、それも平等に、そのままの形で受け入れることが要求されると言っていいであろう。
4.関係性、逆転移の重視
 関係性の重視は、患者がPTGを遂げるうえで極めて重要となる。
その際治療者の側の逆転移への省察が決め手となる。

5. 倫理原則の遵守

これについてはもう言わずもがなのことかもしれない。特にトラウマ治療に限らず常に重要なことだが、ともすると治療技法として掲げられたプロトコールにいかに従うかが問われる傾向があるので、自戒の念も込めて掲げておこう。

精神分析における倫理基準(米国精神分析協会、2007年、抜粋) では精神分析家の従うべき倫理基準として以下の点を掲げている。
1.分析家としての能力 competence
2.  患者の尊重、非差別
3.平等性とインフォームド・コンセント
4.正直であること truthfulness
5.患者を利用 exploit してはならない
6.学問上の責任
7.患者や治療者としての専門職を守ること

最後に―トラウマを「扱わない」方針もありうる
 最後に蛇足かも知れないが、この点を付け加えておきたい。トラウマ治療には、トラウマを扱わない(忘れるように努力する、忘れるにまかせる)方針もまたありうるということだ。トラウマを扱う(「掘り起こす」)方針は時には患者に負担をかけ、現実適応能力を低下させることもある。もし患者がある人生上のタスク(家庭内で、仕事の上で)を行わなくてはならない局面では、トラウマを扱うことは回避しなくてはならない場合も重要となる。治療者は治療的なヒロイズムに捉われることなく、その時の患者にとってベストの選択をしなくてはならない。そしてそこには、敢えてトラウマを扱わない方針もありうるということである。