書評:吾妻壮「精神分析における関係性理論」
その源流と展開 吾妻壮著 誠信書房 2016年
本書は比較的ボリュームは少ないが、著者の渾身の力を感じさせるものである。著者は物静かであるがエネルギーを秘めた若手分析家吾妻氏である。はじめに全体の流れを概観しよう。
「第1章 関係論を理解する」では関係論とは何かについての概説があり、その関係論を狭義なものと広義なものに分け、さらに対象関係論と間主観性理論と対人関係的精神分析の比較を行う。おそらく米国で自我心理学的な環境と対人関係論的環境を、自身のトレーニングを通して身を持って体験した氏だからこそ論じることが出来るのであろう。そして関係論が実は折衷主義ではなく多元論であり、「相入れないものをそのまま受け入れる」という事情が示される。そしてこの緩く、かつ広い流れの成立には、起爆剤としてのグリーンバーグ、ミッチェルの業績があったことが確認される。
「第2章 サリヴァン、対人関係論、対人関係的精神分析」ではサリバン派が米国の精神分析に果たした役割が紹介される。あまりに「反動的」であったサリバン派を精神分析の本流に位置づける上でのグリーバーグ、ミッチェルの業績の意味が改めてうかがえる。本章ではいわゆる自己の多重性及び最近の精神分析の一つのトピックである解離理論に触れられ、その源流がサリバンにあったという事情が示される。