2017年4月12日水曜日

脳科学と精神分析 ⑥

 心の持つ非線形性の一つの表れとして、サブリミナルメッセージの例を挙げよう。私たちの心は意識されないほどの短時間の入力により大きな影響を受ける。しかもその影響を受けた自分の決断を自らの意志として把握するという性質を示す。言い換えれば私たちの心は実に様々な事柄により、内的、外敵に刺激を受け、その時々で行動をとるものの、それを漸成的なものとして錯覚するという性質を有するのだ。

非線形的な心のモデルが示す治療方針

 上述した非線形的な心のモデルは様々な意味で治療的なアプローチの再考を促すことになる。非線形的な心のモデルは、例えば現時点での患者との治療関係の在り方が前セッションの内容から説明されるという考え方への信憑性があまりなくなる。前セッションと時点と現セッションとの間の連続性を保証できないからである。さらには患者への解釈等のかかわりが患者に与える影響も同様に考えることが出来る。少なくとも治療者の意図した影響と、実際に患者に及ぼされる影響には連続性がなく、時には全く反応がなかったり、思いがけない反応をおこしたりする。
勿論心のモデルの変化は、幼少時の養育者とのかかわりが現在の彼の対象関係を形作り…という図式そのものの信憑性を低下させる。転移そのものの生じ方の理解も変化する。線型的なモデルは心のシナリオは潜在的に存在していて、それはたとえば無意識的な欲望やファンタジーが明らかにされるという形で展開していく。それが先ほど述べた漸成的な前提であり、精神分析的な解釈はそれを発掘するという形をとる。しかし非線形的なモデルはそれとは異なる。
  Rappaport Gillは、この漸成的なモデルに対置するものとして学習理論を挙げているが、それは意味がないことはない。現代的な分析理論では、それを構成主義的に考える。すなわちそれは真実が無意識に埋もれていて、それが発掘されるという考えだった。