<BPDの治療>
BPDの治療に関しては歴史的に、精神分析的精神療法、特に洞察的なオリエンテーションを持ったものに対しては退行を示したり、治療を中断するということが早くから知られてきた。そのためマネージメント的な色彩を伴う支持的な精神療法を主軸に行い、また補助的な薬物療法が用いられることが一般的である。
精神療法
BPDの精神療法においては、治療者に強い逆転移感情を引き起こされることが知られている。治療者は患者に対し怒りや恐怖、無力感、または好意や救済願望を抱くことがある。その際逆転移感情には、患者の持つ投影性同一視などの機制がしばしば論じられる。BPDの治療には病棟のスタッフやそのほかの医療・福祉従事者が多くかかわるが、それらの援助者がBPDの患者に感情的に巻き込まれたり操作されることも多く、それを防ぐためにも治療構造や治療契約が大きな意味を持つ。ただしそれをかたくなに守るのではなく、柔軟性を発揮しつつメリハリをつけることが重要である。
なお精神療法には様々な種類のものが提唱されている。それらは力動的精神療法以外にも、認知療法、認知行動療法(CBT)、認知分析療法(CAT) 、家族療法、対人関係療法(IPT)などがある。
力動的精神療法では、洞察を求める古典的な分析療法よりは、治療者の柔軟性がより求められる支持的療法が重んじられる。この療法では解釈や直面化はむしろ控え、患者自身の治癒力を助け、また自己価値観を高めることを目的とする。またBPDでは発達早期にトラウマを経験をしている場合が多く、それに伴う解離症状を扱う用意も必要となる。
認知療法・認知行動療法においては、人の感情は出来事を「どのように解釈するか」(認知)で決まるという理論を基本にしている。とくにBPDの場合は極端な二分法的思考が、気分の変動や急激な行動の変化につながるとした。詳細な治療目標を設定しつつ、クライエントが、二分法的思考法ではなく中間的あるいは多角的にも物事を捉える、感情や行動を自身で冷静かつ客観的に評価するなどの認知を獲得し、それに伴う適切な思考や行動が出来るようになるのが目標である。
また米国では1990年代に自殺行為の治療のために開発され、境界性パーソナリティ障害の治療に応用されている認知行動療法の一種である、弁証法的行動療法(DBT - Dialectical Behavior
Therapy)が知られる。さらにイギリスで1999年にベイトマン、フォナギーにより開発されたメンタライゼーション療法(Mentalisation Based
Treatment - MBTは弁証法的行動療法と共に、現在最もエビデンスのある精神療法である。