転換性障害を疑わせる身体症状の有無にも注意を払いたい。転換症状はその他の解離症状に伴って、あるいはそれらとは独立したものとして見られることがある。DSM-5
に準拠した診断においては、これらの症状は変換症・転換性障害に分類されるが、これらの症状は他の解離症状の存在を示唆する重要な所見となる。また知覚の異常、特に幻聴や幻視があるかどうかも解離性障害の診断にとって重要な情報となる。また幻視は統合失調症では幻聴に比べてあまり見られないが、解離性の体験としてはしばしば報告される。それがイマジナリー・コンパニオン(想像上の遊び友達)のものである場合、その姿は外界の視覚像として体験される場合もある。
生育歴と社会生活歴
解離性障害の多くに過去のトラウマや深刻なストレスの既往(たとえば家族内の葛藤や別離、厳しい躾け、転居、学校でのいじめ、疾病や外傷の体験等)が見られる以上、その聞き取りも重要となる。特にDID のように解離症状がきわめて精緻化されている場合、その症状形成に幼少時の深刻な体験が深く関連している可能性がある。ただしトラウマの体験やその記憶は非常にセンシティブな問題を含むため、その扱い方には慎重さを要する。また患者が幼少時より他人の感情を読み取り、ないしは顔色をうかがう傾向が強かったかどうか、いわゆる「過剰同調性」21)の有無にも注意を払いたい。なお思春期以降に見られる DF には、学校や職場での対人関係上のストレスがその発症に大きくかかわっていることが多く、そこにストレスをため込みやすい本人の性格傾向が関係することが多い。
なおDIDの症状を呈する患者との初回面接には、実際に人格の交代の様子を観察する試みも含まれるだろう。ただしそこにいかなる強制力も働くべきではない。ただし精神科を受診するDID の患者の多くが現在の生活において他の人格部分からの侵入を体験している以上は、初回面接でその人格との交流を試み、その主張を聞こうとすることは理にかなっていると言えるだろう。ちなみに人格部分との接触は、時には混乱や興奮を引き起こすような事態もあり得るため、他の臨床スタッフや患者自身の付添いの助けが得られる環境が必要であり、経験の浅い治療者の場合は、専門家のスーパービジョンも必要となろう。
診断および鑑別診断
解離性障害にはDID を筆頭にいくつかの種類があるが、内部にいくつかの人格部分の存在がうかがわれる際にも、それらの明確なプロフィール(性別、年齢、記憶、性格傾向)が確認できない段階では、分類不能の解離性障害(DDNOS)としておくべきであろう。また解離性の健忘や遁走を主たる症状とする患者についても、その背後にDID が存在する可能性を考慮しつつも、初診段階では聴取できた内容に基づく仮の診断に留めることになる。
なお解離性障害の併存症や鑑別診断として問題になる傾向にあるのは以下の精神科疾患である。統合失調症、BPD(境界パーソナリティ障害)、躁うつ病、うつ病、側頭葉てんかん、虚偽性障害、詐病、など。これらの診断は必ずしも初診面接で下されなくても、面接者は常に除外診断として念頭に置いたうえで後の治療に臨むべきである。
なお解離性障害の併存症や鑑別診断として問題になる傾向にあるのは以下の精神科疾患である。統合失調症、BPD(境界パーソナリティ障害)、躁うつ病、うつ病、側頭葉てんかん、虚偽性障害、詐病、など。これらの診断は必ずしも初診面接で下されなくても、面接者は常に除外診断として念頭に置いたうえで後の治療に臨むべきである。
なお初回面接の最後には、面接者側からの病状の理解や治療方針の説明を行う。診断名に関しては、それを患者に敢えて伝えるべきかは治療者の考え方により異なるが、筆者は患者が体験している症状が、精神医学的に記載されており、治療の対象となりうるものであるという理解を伝えることの益は無視できないであろうと考える。患者が統合失調症という診断を過去に受けており、しかもその事実を十分に説明されることなく投薬を受けているというケースが非常に多いからである。
治療方針については、併存症への薬物療法以外には基本的には精神療法が有効であること、ただしその際は治療者が解離の病理について十分理解していることが必要であることを伝える。また初回面接には時間的な制限があるために、解離性障害の詳細を説明するよりは、それについての解説書を紹介することも有用であろう16,17, 20)。DF に関しては、最終的な診断が下された後は、筆者は患者の記憶の回復が必ずしも最終目標ではなく、出来るだけ通常の日常生活に戻ることの重要さを説明することにしている。
治療方針については、併存症への薬物療法以外には基本的には精神療法が有効であること、ただしその際は治療者が解離の病理について十分理解していることが必要であることを伝える。
解離性障害の鑑別診断
わが国ではここ10年で解離性障害の診断は以前より頻繁に、かつ正確に下されているという印象を受ける。以下に解離性障害の中でも特に臨床上問題となるDID と DF についてはその診断は各論に譲るとして鑑別診断について論じる。