2016年10月3日月曜日

解離の概論および治療 ①, Toward the theory of “Dissociation with capital D” ⑨


 また新連載である。この題で11月までに書かなくはいけなくなった。大変だ。ただし土台になる論文はすでにある。何しろこのテーマで書くことは多かったからである。まず概論ということでICD11の進捗情報を調べたが、ICD-11ベータ試案というのが出来ていることを知った。こんなこと、この論文を書くということでもない限り、絶対調べないだろう。やはり依頼原稿というのはありがたいものなのだ。ところでこのICD-11、例に漏れず遅れに遅れているらしい。はじめは2015年に発表、ということになっていたらしいが、今では2018年ということらしい。その解離性障害の項目を見てみた。何しろそのサイトがあるのだ。 
http://apps.who.int/classifications/icd11/browse/f/en#/http%3a%2f%2fid.who.int%2ficd%2fentity%2f334423054

解離性障害は、「ストレスと特に関連する障害群 disorders specifically associated with stress」と 「身体苦痛障害 Bodily distress disorder 」の間に位置する。ここら辺はDSM-5に準じている。(DSMの場合は 7「心的外傷およびストレス因関連障害群、8.「解離症群/解離性障害群」、9.「身体症状症および関連症群」の順である。)

解離性神経症状障害 Dissociative neurological symptom disorder
解離性健忘 Dissociative amnesia
離人-現実感喪失障害 Depersonalization-derealization disorder
トランス障害 Trance disorder
憑依トランス障害 Possession trance disorder
複雑性解離性侵入障害 Complex dissociative intrusion disorder
解離性同一性障害 Dissociative identity disorder
二次的解離性障害 Secondary dissociative syndrome

ちなみにDSMの方を思い出そう。
DSM-5
解離性同一性障害
離人感・現実感消失障害
他の特定される解離性障害(混合性解離症の慢性および反復性症候群/
長期および集中的な威圧的説得による同一性の混乱/ストレスの強い出来事に対する急性解離反応/解離性トランス)
特定不能の解離性障害
解離性健忘

ここでついでにICD-11 ベーター草案 に出てくる解離の種類を紹介しちゃおう。ざっと翻訳してみる。本邦初公開だろう。



解離性神経症状障害 ― 要するに転換症状。転換 conversion という用語そのものをなくす魂胆か?これは要するに転換症状だ。ICDDSMの齟齬、すなわち両者は転換症状を解離として認めるかどうかに温度差があるという状況は、このベータ案が採用されるとしたら、今後もICD-11DSM-5の間で存続することになる。私はICDの方がわかりやすいと思うが、なにしろDSM2013年発刊)はICD2018年予定)より早く出ているからなあ。

解離性健忘 これはDSM-5にもある。
離人-現実感喪失障害 これもDSM-5にもある。
トランス障害 これもDSM-5にもある。ちなみにトランス状態とは、単回の意識状態の変化、それが周囲の気づきの狭小化や焦点化や本人がコントロール不可能なパターン化した動きや姿勢を伴ったものである。
憑依トランス障害 憑依された形でのトランス状態。

複雑性解離性侵入障害 さあ、これがフクザツだ。大体一つのパーソナリティが支配しているが、時々別の解離的な存在に侵入される、という。しかしその侵入してくる解離的な存在が主導権を握ることはないという。結局はDIDの不全形というとらえ方だ。

解離性同一性障害 これもDSM-5にもある。こちらには二つ以上のパーソナリティが交代して主導権を握る、と書いてあるぞ。
 二次的解離性障害 
しかし遁走はICDでもなくなったしまうのだなあ。もしそうだとすると残念である。



ということで本文の始まり。


解離性障害の位置づけ

精神医学における解離性障害の認知度は最近とみに高まりつつあるという印象を受ける。臨床家の間から、解離性障害を有する患者に出会い、その扱いを知りたいという声をしばしば耳にするようになった。解離性障害は長い間ヒステリーと同一視されるという言わば不遇の時代を超えて、その存在意義が高まりつつあるといってもいい。


Toward the theory of Dissociation with capital D ⑨

Dissociation in the psychoanalytic context - after Freud

There is one point to be stressed; Freud’s immediate followers did not abide by Freud's rather negative attitude toward dissociation. Frenczi, Fairbairn, Winnicott, among other people integrated the idea of dissociation in their theory, although their way of using the term is greatly different.
The first analyst who made the stance different from Freud’s was Ferenczi, and his writing is worthy of close examination. Already in his 1933 paper, he made clear that splitting of consciousness of the patients is due to the trauma in their childhood. He stressed that as the trauma repeats itself, the process of splitting becomes even more complicated and different personalities are created along the process. (Ferenczi, S. (1933/1949).  Confusion of tongues between the adult and the child. International Journal of Psychoanalysis, 30, 225-230.) 

In the 1930s, Ferenczi returned to the place where Freud conceived his trauma theory before he allegedly abandoned in1897.(Masson, The Assault on Truth (1984Freud once stated that all the histerical patients had history of sexual trauma. (Freud, Aetiology of Hysteria, 1895).