ある講演 ③
(承前)
なぜそれが大事かというと、無意識が声を抑えてると考えると、「あなたが自分を表現したくない原因というのは一体、何なんでしょう。あなたが声を失ったのは、いつですか。そのとき何かがありましたか。あなたの過去にさかのぼって、いろいろ考えてみましょう。」というふうに、どんどん探索していくことになるわけです。声が出せない無意識的な理由を探索していく。ところが掘っても掘っても、あるいは掘ろうとするその試みだけで、もう患者さん、来なくなっちゃったりする。だから失声が出てきたときの、一番の対処の仕方というのは、「今あなたは声が出ないという状態になっていますね。この状態が、いつまで続くかは分からないけども、日常生活をできるだけこれまでのように送っていけるような対処を一緒に考えましょう」。もちろん、これまで何回か失声がありました、こういうときに良くなりました、ということもあるでしょう。例えば、かつて旦那さんに暴力を振るわれた後に失声がしばらくありました、みたいな話が聞けるとしたら、その場合にはこの失声にはおそらく原因があるんですね、きっかけがあるんですねっていうことで、それに従って対処を考えることもできるでしょうが、多くの場合、失声の場合にはきっかけが明確ではなく、起こるのも突然、治るのも突然なんです。
(承前)
なぜそれが大事かというと、無意識が声を抑えてると考えると、「あなたが自分を表現したくない原因というのは一体、何なんでしょう。あなたが声を失ったのは、いつですか。そのとき何かがありましたか。あなたの過去にさかのぼって、いろいろ考えてみましょう。」というふうに、どんどん探索していくことになるわけです。声が出せない無意識的な理由を探索していく。ところが掘っても掘っても、あるいは掘ろうとするその試みだけで、もう患者さん、来なくなっちゃったりする。だから失声が出てきたときの、一番の対処の仕方というのは、「今あなたは声が出ないという状態になっていますね。この状態が、いつまで続くかは分からないけども、日常生活をできるだけこれまでのように送っていけるような対処を一緒に考えましょう」。もちろん、これまで何回か失声がありました、こういうときに良くなりました、ということもあるでしょう。例えば、かつて旦那さんに暴力を振るわれた後に失声がしばらくありました、みたいな話が聞けるとしたら、その場合にはこの失声にはおそらく原因があるんですね、きっかけがあるんですねっていうことで、それに従って対処を考えることもできるでしょうが、多くの場合、失声の場合にはきっかけが明確ではなく、起こるのも突然、治るのも突然なんです。
実は精神科的な症状のほとんどに関して、同じことが言えるのです。例えば過食をしてるとか、リストカットをしてるとか、自傷行為があるとか、そういうことがあった場合に、保護者も治療者も「どうしてそんなことをしたんですか?」と問い詰め、それを「取り締まった」り禁止したりする傾向にあります。しかし治療方針としては別の方法を取らざるを得ないということがある。そして解離性の症状の場合も全く同じです。
さて解離とは何か、ということですが、図で説明しますと、真ん中の意識に、知覚とか記憶とかがつながっている。いわばコンピューターにケーブルでつながっている周辺機器だと思ってください。すると例えば、プリンターにつながるコードが断線すると、プリントアウトできなくなる。それが失声症に例えられるでしょう。それ以外にも知覚だけが切れて抜け落ちた状態、記憶だけが抜けた場合、情動が断裂すると何にも感じられない状態というふうに、心が持っているいろいろな機能のうちのどれか一部が切れた状態が解離というわけです。そしてこれはたいてい突然起き、突然回復します。あたかもスイッチングが起きるように。解離現象とはこのようにスイッチのオン・オフ状態のようなものです。人によっては診察室に入ると別の人格になり、ドアを開けて外へ出たら、もう元の人格に戻ったりするのです。
ただしここでさきほどの話を思い出していただきたいのですが、例えば運動機能が切れてしまったとしたら、この中心の意識と離れてしまったネットワークというのは、自律性を増すということにもつながります。するといきなり感情だけが暴走するようになったりとか、いきなり体が動きだしちゃう。コックリさんみたいな感じで、手が勝手に動きだしちゃうみたいなことが起きる。解離っていうのは、定義上は、さっき言ったように、意識がまとめている機能が一時的に失われて、心の一部が停止するというわけですが、その上に切り取られた機能が独自に活動を始める状態でもあり、これがすごく重要なわけです。
今のモデルっていうのを、もうちょっと解離性障害、特にDIDの状態に合った形で説明しましょう。人間には恐らくいろいろな意識状態があって、それぞれがつながっています。例えば私は今ここで話をしてるのですから、講師というアイデンティティーを発揮している。昨日だったら、私は外来の治療をしてきたので、治療者としての役割を果たしていました。皆さんの側では、今は受講生という役割、しかし家に帰ったら子どもに対しては父親の役割を発揮するかたもいらっしゃるでしょう。そしてそれらは恐らくあまり分かれることなく機能しているはずです。それを人間の多面的な状態とします。すると多重的な状態というのは、それぞれが1個ずつ分かれてしまい、突然、大人の自分として振る舞っていなくちゃいけないはずの状況で、子どもの人格が出てきてしまう、ということが起きます。
先ほどの、切り離された部分が自律性を発揮する、という話ですが、人間の体にはそのような性質があって、私はよく例に出すのですが、心臓というのは一つの塊として拍動をしていますが、心臓を切り刻むと、それぞれが個別に拍動して、そしてもっと小さく切って、心筋という、ほんのちっちゃな、0.何ミリの細胞一個一個にばらして、顕微鏡で見ると、やはりそれそれ拍動するわけです。ただしその拍動っていうのは、みんなばらばらで、好き勝手に動いている。ところが心臓としてまとまった臓器になると、一つのリズムを持って拍動することになるわけです。心というのも似ています。ところがその心臓の細胞がバラバラに動き出す、という恐ろしい状態があり、それが心房細動という状態です。そうすると心臓がまとまって拍動して、血液を体中に送り出すことができなくなって、そしてそれが心不全につながってしまうわけです。解離っていうのは、そういうところがあります。先ほどの話にも出ましたが、私はよくこういうコンピューターの絵を描きます。解離とコンピューターのアナロジーです。CPUというのがあって、これが最近ややこしいのは、これがデュアルコアとかになってるんで、最初から二重人格みたいなんですが、まあ1個としましょう。そうするとスピーカーとか、プリンターとか、モニターとかマウスが、いろいろつながってるわけですね。そうすると、よくプリンターなんか、昔からコンピューターをいじってる人だったら、経験あると思うんですが、プリンターのドライバーをちゃんとインストールしないと、プリンターが暴走して、訳の分からない文字化けした何かを、延々とプリントアウトするってことが昔よく起きたんですが、皆さん体験ないかな。プリンターがうまくつながってないときって、狂ったように訳の分からない文字を打ち続ける、紙を何枚も無駄にするみたいなことが。プリンターが中心につながれていないと、しばしば、そういう暴走といったことが起きます。ですから、そういう意味では、このコンピューターのアナロジーとすごく近いところがあって、実はコンピューターのアナロジーというところでも改めて話すんだけども、例えばオペレーションシステム、OSってあるじゃないですか。Windows、私は95から使ってましたけども、大変な昔ですけども、Windows、最近の7とか8とかあるでしょう。そうすると7とか、8とかで動いてるといいんだけども、その中でDOSモードを立ち上げることができたりするわけです。そうすると解離の中にはDOSモードで急に動きだしちゃったコンピューターに似てるところがあります。それがいわゆるトランス状態によく似ています。その場合は人格もはっきりせず、もうろうとした状態になります。ちょうどレベルとしてはDOSに似ていますね。