いろいろなハイがある、という章立てで、これまでに述べたことを集めてみよう。
サドル窃盗男は「変態ではない」のか?
ライターのインベカヲリ氏の記事(新潮45,2016年4月号)は、2013年に神奈川県で、自転車のサドル200個を盗み集めた男の話を書いている。「においを嗅いだり舐めたりするのに欲しかった」そうである。このケースで不思議なのは、のちに不起訴になったこの男性が「報道され、深刻な名誉棄損を受けた」としてマスコミ各社を訴えたことである。「サドルフェチ」的な報道に深く名誉を傷つけられたということだ。
似たような例として、最近(2016年5月)一部で話題になったのが、匂いに興奮して(「ハイ」になって)30着の雨合羽を盗んだ32歳の男性の話。それもヤクルトレディーのものに特化したとのこと。
これなども完全な変態扱いである。
私もこれだけ報酬系の話を続けていると、「報酬系フェチ」と言われても仕方がないが、私としては断固彼らを擁護したくなる(しかし、もちろん窃盗はいけない。しっかり正規のルートで購入すべし、と言いたいところだが、彼らにとってはそれでは意味がないのかもしれない。)
結局私が言いたいのは次のことである。報酬系が何により興奮するのかは、人によって全く異なるのだ。その一部は生活習慣により決まり、別の一部には遺伝が関係し、別の一部はおそらく偶然により左右される。しかしそうはいっても読者はその実情を知らないかも知らない。そこでこの章(ナンの事だ)では、報酬系はいろいろな刺激によりハイになるという事情を具体例を通じて伝えたい。
ランナーズハイ
まずは無難な例から行こう。皆さんもよく知っているランナーズハイ。イイや、資料に当たらずテキトウに書こう。必ず出てくる、脳内麻薬物質のエンドルフィンの分泌、という記載。でも要するに報酬系の興奮なのだから、最終経路のドーパミンの分泌が起きるということであれば、エンドルフィンでなくてもいいわけだ。しかしここで考えよう。走っている時の快感は、ドーパミンとの深い関連があるとは限らない。思い出そう。ドーパミンの分泌は、急に報酬を与えられた時、あるいは将来の報酬を約束された瞬間。(最近では痛み刺激でもドーパミンが放出される、というのだから、ますますよくわからない。でも脳の話とはそんなもんだ。)