2016年7月29日金曜日

推敲 2 ⑥

 ある研究Clark, L.,  Lawrence, AJ, Astley-Jones, F,  and Gray, N: Gambling Near-Misses Enhance Motivation to Gamble and Recruit Win-Related Brain Circuitry. Neuron. 2009 Feb 12; 61(3): 481–490.
この論文によると、ニヤミスはフルミスに比べると心地よさは少ないが、もっとやりたい、という気持ちを生むという。ただしそれは、ギャンブルをする人がある程度のコントロールを握っている場合であるという。このコントロールとはどういうことかといえば、たとえばサイコロを自分で振ること、パチンコ玉を自分で弾くこと、宝くじの番号を自分で選ぶこと、あるいはその店を、買う時間を自分で選ぶことなどである。そうすることでギャンブラーは自分がつきを呼び、大当たりを引き寄せるという錯覚を持つ。するとニヤミスによりギャンブラーは「常に負けている」ではなく、「常にもう少しで勝っている」という風に感じ取られるというわけだ。
この論文では擬似スロットルマシンをPC上で作り、6つのアイコン(バナナとか、りんごとか)がぐるぐる回るようにする。一つだけ位置がずれていた場合はニヤミス、それ以上ずれていたらフルミスと呼ぶそうである。それを自分で止めるか、PCで止めるかは両方との結局は100%ランダム性に左右されるにもかかわらず、自分で「止めた」方のニヤミスは、明らかにフルミスよりも不快で、同時にもっとやる気を起こさせたという。私たちのなじみの言葉を使えば、ニヤミスは、less liking but more wanting, つまり射幸心全開となるというわけだ。
そこで脳との関係であるが、ニヤミスの場合は、両側の腹側線状体bilateral ventral striatum  と右前島皮質 right anterior insula が興奮していたというのだ。そしてそこは、思わぬ棚ボタで興奮するところであった。もう一つの発見は、ニアミスではいわゆる報酬サーキット(右前帯状皮質 rACC, 中脳 midbrain, 視床 thalamus も興奮し、それが嗜癖と関係しているということがわかったという。
この論文でも強調されているのが前島皮質である。ここが怪しい。薬物でも渇望に深く関連しているのがこの前島皮質であることが知られている。「やりてえ!」はここが関係し、事故や病気でここに損傷がある場合にはこの渇望が起きなくなるという。悪いやつ!前島皮質!。
そしてもう一つの悪いやつが右前帯状皮質 rACC,これが、自分がニヤミスを引き入れて、もっと巧くなれるという感覚と関連しているという。
結論として、次のようなことが言えるだろう。私たちは偶然生じる事柄にも、自らの能動性を読み込む傾向にある。上の論文にも出てきた、コントロールの感覚は、実は私たちがほとんど常にファンタジーの世界で偶発事を加工することにより得ているものである。スロットルマシンの出方を決めているのは、自分がボタンを押すタイミングである。もちろんボタンを押すことで出る画はランダムであろう。あるいはもっと単純にサイコロを振る、という例でもいい。1を出したいとサイコロを転がすとき、私たちはほぼ確実に「1よ、出よ」と念じているはずだ。あたかもそれが1が出る確立を現実に高めているように、である。するとニヤミス、たとえば6とか2とかは、あと一歩で念じ方が足りなかった(もう少しうまく、ないしは強く念じていたら、見事に1を出せたはずだ、と思う)ことを意味するのである。