2016年6月7日火曜日

愛 ④

ゼキ論文が最後に触れるのは、美、というテーマである。彼は美しい顔を見ることと性的に感じることは類似した脳の部位を刺激するとして、眼窩前頭皮質、島皮質、前帯状回をあげている。ここら辺はもう何度も出てきているのはご存じだろう。魅力的な顔と、愛する人の顔は両方とも、二つの部位を抑制する。それらは前頭前野と扁桃体である。つまり無批判的になってしまうということだ。彼はここで特に眼窩前頭皮質の持つ意味について強調している。この部位は扁桃体や前帯状回、被殻、尾状核といった部位とつながっている。だから美と愛とはひとつながりのものとして体験されるのも無理はないといっているのである。
もう一つの論文に行こう。A. de Boer, E.M. van Buel, G.J. Ter HorstLove is more than just a kiss: a neurobiological perspective on love and affection. Neuroscience Volume 201, 10 January 2012, Pages 114124 まだ4年しか経っていないのに、ネットで無料で手に入るなんて。

この論文で参考になるのは、次のような見解である。まずは人間はそれほどモノガミスト(一夫一婦主義者)ではなく、大体4年目には別れたくなる、いい加減なところがあるという。つまり人間の脳は、大体一人の子が物心つくころまで、番いをつなぎ留めておくくらいのことしかしない、という。そしてそのための装置として、母親の子への愛着と、パートナーとのつながりは大体似ていて、そこでは例のオキシトシン、バソプレッシンが関係しているという。また出てきた。そう、生まれてきた赤ん坊を抱いたときに「可愛い!」という気持ちと、ひとめぼれの相手にビビッと来た時とは、両方ともオキシトシン、バソプレッシンが働いていて、両方ともメンタライゼーションを無効化して、相手への判断力を低下させる、という理屈だ。なんとわかりやすいのだろう。