2016年6月2日木曜日

射幸心 番外

 すごーくいいものを見つけた。ネットでただで手に入る英語論文。テーマは「ニヤミス」だ。絶好の情報源。ちょっと古いけれど(2008年)まあいいか。現都知事が絵画を落札したときのお得感より、こっちのほうがまだいいだろう。何しろ原資がいらないからだ。(あ、政治資金もそうか。)
Luke Clark, Andrew J. Lawrence,1 Frances Astley-Jones, and Nicola Gray (2009)  Gambling Near-Misses Enhance Motivation to Gamble and Recruit Win-Related Brain Circuitry Neuron 61, 481490. が無料公開されている。
 この論文の抄録によると、ニヤミスはフルミスに比べると心地よさは少ないが、もっとやりたい、という気持ちを生むという。(とさらっと記載されているが、ここは重要だ。下で詳述。) ただしそれは、ギャンブルをする人がある程度のコントロールを握っている場合であるという。このコントロールとはどういうことかといえば、たとえばサイコロを自分で振ること、パチンコ玉を弾くこと、宝くじの番号を自分で選ぶこと、あるいはその店を、買う時間を自分で選ぶことなどである。そうすることでギャンブラーは自分がつきを呼び、大当たりを引き寄せるという錯覚を覚える。するとニヤミスによりギャンブラーは「常に負けている」ではなく、「常にもう少しで勝っている」という風に感じ取られるというわけだ。
この論文では擬似スロットルマシンをPC上で作り、6つのアイコン(バナナ、とか、りんごとか)がぐるぐる回る。一つだけ位置がずれていた場合はニヤミス、それ以上ずれていたらフルミスと呼ぶそうな。それを自分で止めるか、PCで止めるかは両方との結局はランダム性に左右されるにもかかわらず、自分で「止めた」方のニヤミスは、明らかにフルミスよりも不快で、同時にもっとやる気を起こさせた。私たちのなじみの言葉を使えば、ニヤミスは、less liking but more wanting, つまり射幸心全開となるというわけだ。
そこで脳との関係。ニアミスの場合は、両側の副側線状体 ventral striatum bilaterally と右前島皮質 right anterior insula が興奮していたというのだ。そしてそこは、思わぬ棚ボタで興奮するところであった。もう一つの発見は、ニアミスではいわゆる報酬サーキット(右前帯状皮質 rACC, 中脳 midbrain,視床 thalamus も興奮し、それが嗜癖と関係しているということがわかったという。
この論文でも強調されているのが前島皮質。こいつが怪しい。薬物でも渇望に深く関連しているのがこの前島皮質であることが知られている。「やりてえ!」はここが関係し、事故でここに損傷がある場合にはこの渇望が起きなくなるという。悪いやつ!前島皮質!。

そしてもう一つの悪いやつが右前帯状皮質 rACC,これが、自分がニヤミスを引き入れて、もっと巧くなれるという感覚と関連しているという。」