2016年6月13日月曜日

装置 ②

とにかく続けよう。このロボットが人工的な実験室の環境で「生き残る」ためのプログラムは、先述の二つの指令を含むだけですむだろう。しかし問題は地球という自然環境で生き残るためには、実は様々な条件をここに入れなくてはならず、それが結局は報酬系である、ということを示したいわけだ。
実際の自然界では、充電マットは至るところに形を変えて存在し、またいつ現れ、いつ消えるかがわからないために、こまめに立ち寄らなくてはならないこと、そして同じことが高温マットにも言えるということが重要である。高温マットにも温度が様々であり、比較的低温で、Cエレの温度が少し上がって不安定になる程度から、接触部分から溶け出すといった危険な高温マットまで広く存在する。Cエレ君はまさに充電マットと高温マットのスープの中にして右往左往する形になる。おなかがすいたら(電池の残量が減ってきたら)センサーを働かせ始めて電源マットの位置を探し出す、とか途中でたまたま高温マットに出くわしたら、センサーが働いてそれを回避するとか言う悠長なレベルではない。スープの中で常にこまめにセンサーを働かせ、電源マットから充電をして、同時に高温マットを避ける。充電するか、避けるか、選択するか、拒絶するかという決断は常にこまめに生じなくてはならない。そしてそこでは充電マットの有する電池の残量と、高温マットの「危険性」とを常に天秤にかける必要が生じる。それが生存に直結するように両者のバランスが整っているのだ。たとえば充電マットが少し遠方にあり、そこに行きたいのだが、途中に高温マットが潜んでいる可能性があり、うっかりしているとヤラれてしまうとか。そしてここで重要なのは予兆、予兆、予兆である。

実はCエレ君の生存はこの予兆の正確さにすべてがかかっているということがわかる。ある瞬間に、どのような電源マットの存在を把握し、同時に高温マットの存在も感知し、総合的に判断してどう進んでいくか。多数の競争相手がいることが、この予兆の正確さをさらに要求する。いい電源マットは、そこにたどり着くまでに他のCエレ君に取られてしまう。「後出し」条件だが、実はCエレ君にはたくさんの兄弟がいて、そこらへんを泳ぎ回っている。(聞いてないゾー!)もっと言えばCエレ君には様々なライバルがいて、実は彼自身が電源マットなのだ。(エー!)つまりライバルたちはCエレを取り込んで、充電もできるのである。(つまり捕食する、ということだ。)すると結局こんなことが起きる。Cエレ君は今現在の環境で、あらゆる電源マットや高温マットの存在の予兆を察知し、そのいわば「力価」を査定し、行動を決める。力価とはつまり、電源マットがどの程度遠くにあり、その程度到達するまで時間がかかり、どの程度そこに電源が残っているかを瞬時に判断することであり、高温マットについても同様のことをすることだ。もしこの力価の査定が誤っているならば、それだけCエレの生存率は低くなる。たとえばすごく「美味しい」電源マットを遠くに見つけてそこに向かって泳ぎだしても、途中で出会うこぶりの高温マットにダメージを与えられて力尽きてしまうとか。結局はCエレの生存は、電源マットと高温マットの両者の力価の積分値の比較ということにかかっているが、それを巧くできないと他の同胞Cエレの生存を許し、その分自分の生存の可能性は遠のく。