2016年6月12日日曜日

報酬系という装置 ①

 この部分はおそらく本書(???)の最初に来るはずだが、目を惹く内容ではない。しかし重要である。
あなたはロボットを製作している。ごく簡単なものである。「Cエレ」という名前だが、その由来は定かではない。細長い体の部分はもう出来上っており、後は頭の部分だが、複雑な行動を行わせる予定はない。たとえば感情表現は無理だ。大体Cエレちゃんは、それを表現するような表情や声なども備えていない簡単なロボットである。でも製作者であるあなたは一つの使命を負っている。それはそのロボットが「生き残る」ための行動をするようなプログラムを与えることだ。要するにCエレの素材の耐用年数が来るまでは、壊れずに動き続けることだ。そのロボットの頭部に、あなたは一つのチップを埋め込むことになっている。そこにはある種のプログラムを書き込み、ロボットはその指令に従うのだ。ちなみにそのチップには「報酬系」と書かれているが、まあそれはどうでもいい。
さて生き残る、とは具体的にはどういうことか。それは唯一「食べる」ことである。要するに充電だ。そのために実験室のいくつかの場所にある充電用のマットに行く必要がある。そのマットには磁場が発生しており、マットの上に載るだけで、電磁誘導で内部に埋め込まれた電池が充電されるとしよう。しかし残念なことに、そのマット自体が電池式なので、電気の量が足りなかったりして、時にはいくつかを渡り歩かなくてはならない性質のものだ。また実験室のいくつかの場所には、異常に高温のマットがあり、それに接触するとロボットの部品が溶けてしまうので、そこは回避しなくてはならない。そしてより実際の自然環境に近づけるために、充電マットと高温マットは、時々場所を移動し、なかなかそれを予測できないとしよう。ロボットはセンサーでその位置をある程度把握できるが、常に位置を変える可能性のあるそれらを見張っている必要がある。うん、それっぽくなってきたぞ。そこでロボットが生き残るための条件は自然と決まったことになる。
1.  電源マットは電池切れにならないように、時々そこに帰っていかなくてはならない。
2.  高温マットに接触するのは出来るだけ避けなくてはならない。
これだけだろうか? 実はもう一つある。
3.  Cエレは常に動き回る。これはもうこのロボットの性質なのだ。常にクネクネ体を動かして進む。
もし実験室という限られた環境が与えられたならば、ごく簡単なプログラムだけでもCエレは生き残るだろう。
さてCエレを、上の1,2,3の状況は同じで、しかしできるだけ自然な環境に近づけるとしたらどうだろうか?電源マットはどこにあるか見えにくかったりする。高温マットは突然現れたりする。だから Cエレならば、電源マットまでたどり着けずに、道半ばで電池切れになって(つまり死んで)しまうことを避けるために、ある程度電池の残量が減れば、それだけ必死に電源マットを探すという条件を付けなくてはならない。また電池の残量が減って、電源マットに向かっている途中に、高温マットの姿が見えてきたとしたらどうだろう?進むべきか、中止すべきか。結構複雑だぞ。リスク(高温マット)とベネフィット(電源マット)ほぼ同じ場所にあるとしたらどうするのだろう? エイヤッとサイコロを振らなくてはならないが、それをどうやって実行に移させるのだろう?

私がこれから考えようとしてるのは、結局はCエレは報酬系を持つしかないだろう、ということだが、果たしてそこまで行き着くのか、あるいは頓挫するのか。