2016年4月2日土曜日

射幸心の不思議 ①

射幸心の不思議

射幸心という言葉を聞いたことがあるだろうか?文字通り考えれば、幸福という的を矢で射抜きたいという願望ということになるが、そこにアヤしいギャンブルのにおいがある。射幸心は私たち人間が持つアヤしい願望であり、ギャンブルはそれを刺激して、私たちを破滅への道に誘いこむのだ。いったいこの射幸心とは、報酬系とどのように関係しているのかを考えよう。

日本では、パチンコなどの公営ギャンブルは、「遊戯」ということになっているようだ。だから公営ギャンブルという呼び方も正式なものではなく、公営競技というらしい。呼び方はともかく、ギャンブルが、本当の意味での「遊戯、競技」とどこが違うのかを、人は考えたことがあるだろうか?それは射幸心が介在しているか否か、ということになる。それでは射幸心とは何か?
あなたが誰かとコインの裏表でお金をかけるとしよう。表が出たらあなたが相手のお金、例えば100円を受け取り、逆に裏が出たらそれを取られる。それをたとえば10回行うとしよう。あなたはそれに熱中するだろうか?おそらくそうだろう。でもどうしてこれが面白いと感じられるのだろうか?確率から行ったら、あなたは10回の試みで、平均すればプラスマイナスゼロになるだろう。100回でも同じはずだ。結局あなたはゲームをする前とした後で結局お金を損も得もしないはずだ。それなのに、どうしてそれが面白いのか、ということになる。
その秘密は、おそらく掛け金にある。思考実験をしよう。掛け金をゼロにする。とたんにあなたは「そんなアホらしいことなんで出来ない!」いったいどうしてなんだ?お金を賭けても、得する確率は変わらないのである!!
ここに射幸心が潜んでいる。
賭け事も依存症だ!!
米国の精神科のバイブルとも言われている診断基準「DSM-5」は2013年に発刊されたが、ギャンブル依存に関しての分類が大きく変更された。それまでは「衝動コントロール障害」に分類されていたが、DSM-5からは、「ギャンブル障害」として、「薬物依存、嗜癖障害」というカテゴリーと一緒になったのである。それもそのはずで、最近の研究が進む中で、 結局薬物依存とギャンブル依存は、脳の中で同じ部分が暴走しているということがわかったからだ。それはそうだ。本書をお読みになっている方ならお分かりの通り、それは「報酬系」の異常なのである。
そこで最近わかったことは、ニアミスだけでなく、負けることが、さらにギャンブルの継続へと人を掻き立てることがわかったというのだ。
ギャンブル依存が一種の嗜癖であるという事実は、最近のパーキンソン病についての研究から明らかになったという。それはパーキンソン病の治療のために用いるドーパミン形の薬が、嗜癖を呼び起こすという臨床的な事実が関係していた。パーキンソン病とは、脳の中のドーパミンを創り出す細胞が萎縮し、枯渇してしまう病気である。そのためにドーパミンの量を脳内に増やすための薬「ドーパミン剤」が用いられることになる。するとパーキンソンの治療を受けていた患者さんたちの中に、それまでまったく手をつけたことのないギャンブルにはまる人が出てきたというのだ。
負けるから熱くなる
ところでギャンブル依存の世界で最近発見されていることは、射幸心を知る上で極めて貴重なことであった。それはやはり、彼らはお金のために賭け事に夢中になるのではない、ということである。彼らは、負けると、あるいはニヤミスだと、大当たり以上にドーパミンが出て賭け事に夢中になるというのだ。それを Loss chasing (負けの追跡)と呼ぶ。結局はお金が儲かるかが不確かであればあるほど賭け事に夢中になるというのだ。

ある学者はこれには、系統発生的な意味があるという。哺乳類でも鳥類でも、餌が予想に反して出てくるような仕掛けにより夢中になる。総じて餌の出る量が、予想できる仕掛けより低いとしても、動物はそちらを選ぶという。そしてもともとこの賭け事好きの個体が、生き残ってきたのだ、という仮説を立てる学者もいるという。(150321 gambling disorder