2016年3月28日月曜日

報酬系 ⑭

いまアメリカでは、麻薬入りの鎮痛剤が蔓延し、それによる中毒や死亡が大きな社会的な問題になっている。そのため一定期間に処方できる量を調整しようという動きが起きているのだ。それらの薬とはOxyContin, Percocet and Vicodin だという。オキシコンチン、パーコセット、バイコディン・・・・。懐かしい名前である。私が米国に滞在していた当時、これらの薬は盛んに処方され、横流しもされていた。当時からすでに問題となっていたことを思い出す。
今アメリカの街の至る所で、一種の悲鳴のような声があちこちで聞かれるそうだ。「先生、私の薬を減らすんですか?オキシコンチン一日6錠でもこんなに腰が痛いんですよ。それを3錠に減らすなんて。痛みで死んでしまいますよ。先生は鬼ですか?」
私は一種の感慨に似たものを感じる。日本では痛みに麻薬の入った薬が出ることはない。皆ハナからそんなことを期待していない。その代りアメリカ人なら見向きもしないような、「非ステロイド系抗炎症剤」、オキシコンチンの何分の一も効かないような通常の痛み止めをせっせと飲んでしのいでいる。幸い腰の痛み、肩の痛み、頭の痛みに苦しんでいる日本人が、アメリカ人よりはるかに多いという印象はない。あまり変わらないのだ。
ちなみにこの話には裏がある。日本人のトランキライザーの使い方である。これについては日米が逆転しているようだ。日本の病院のコンピューターの入力システムでは、「ソラナ」と入れるとあとは、「ソラナックス 04.mg 一日3錠、28日分」と自動的に入力される。ソラナックスを一日3錠は「定番」である。2004年に帰国して、初めは驚いた。アメリカではこれが考えられない。ソラナックスなどのトランキライザーは嗜癖になりやすいと言うので、定時薬として処方されることはホントに少ないし、医者の間で顰蹙ものだ。薬中毒を幇助している、といわれかねない。それでいてアメリカではアルコール中毒は日本の10倍以上、そして巷にはマリファナはおろか、コカイン、メタンフェタミンなどが蔓延しているのだ。アメリカ人はマイナー系にすぐに中毒になってしまうので、確かにこの処方に注意深くなっているのは賢明なことである。
ちなみにでは日本人にマイナー系の中毒が多いかというと・・・・。それほどでもない。ちょうどお酒はコンビニでもどこでも買えるが、アメリカ人ほどアル中にならないという事情と少し似ている。
 麻薬入りの鎮痛剤も、トランキライザーも、いずれも一種の苦痛(前者は痛み、後者は不安や不眠)を一時的に取り除く薬だ。人はそれを飲んで、その聞き味に驚く。医学の進歩に驚き、あるいは現代人はもっとそっけなく「あ、痛かったらこれを飲めばいいんだね。」と受け入れる。付けはそのあとにどんどんまわってくる。