2016年1月4日月曜日

関係精神分析の新たな流れ(また推敲)(3)


PRにおける最近のトピック

以下にRPにおいて特に最近取り上げられているトピックをいくつか挙げたい。それらはFerenczi理論の再評価、脳科学、トラウマ理論、解離理論、フェミニズム、などである。こう挙げただけでもRPの学際性は、それ自体が一つの大きな特徴といってもいいであろう。先にRPは無意識の探求という本来の精神分析の在り方を逸脱していると述べたが、その意味ではRPは「精神分析的であれ」という縛りを自らから解き放ち、あらゆる関連分野における知見を貪欲に取り込むという動きがみられる。

Ferencziの再評価

近年においてFerencziの再評価が進んでいる。Freud と同時代人のFerencziは驚くべきイノベーターであり、RPを事実上先取りしていたという意見すらある(Aron, L. & Harris, A.Eds. (1993) The Legacy Of Sandor Ferenczi. Routledge)。実際RPにおいては、Ferenczi理論の再考は盛んにおこなわれている。2008年にはニューヨークにフェレンチセンターも立ち上がっている。わが国でも森茂起による翻訳により、Ferencziの業績が再考される機会が与えられている。同センターの代表はLewis Aron, Adrienne Harris といったRPの代表格ともいえる人たちである。
Ferencziといえば、かのH.S.Sullivanが米国でのその講演を聞いて深く共感し、自らの考えに最も近い精神分析家と感じ、弟子のClara Thompsonをブタペストまで送って分析を受けさせたという逸話が思い出される。RPFerencziとのつながりは実はその時代にまでさかのぼって作り上げられていたとみることも出来る。
 ダイアローグ誌上でFerencziの概念の再評価に大きく貢献した人としてJay Frankel の名があげられる(Jay Frankel, J. (2002) Exploring Ferenczi's Concept of Identification with the Aggressors: Its Role in Trauma, Everyday Life, and the Therapeutic Relationship. Psychoanalytic Dialogues, 12:101-139.
FrankelFerenczi1932年に発表した論文「大人と子供の言葉の混乱」を取り上げ、そこで提案されている「攻撃者との同一化」という概念が、トラウマ状況において被害者である子供の心に生じる現象をとらえている点で、よく知られるAnna Freudの同概念に勝るとする。Frenkel は最近のトラウマ理論を援用しつつ、Ferencziの同論文の解読を行い、そこに同一化のプロセスと解離のプロセスが同時に生じているという点を指摘する。すなわち解離とは攻撃者に対面した現在の恐怖を無きものにするが、それは攻撃者を内側に取り込むことによりコントロールが可能となると考えられるのだ。
 このFerenczi の概念の先駆性は近年になりますます広く論じられつつある。

脳科学
ダイアローグ誌に2011年に掲載されたAllan Schoreの論文は、RPが脳科学的な知見との整合性を求めている事実を示している。(Schore, A.N. (2011). The Right Brain Implicit Self Lies at the Core of Psychoanalysis. Psychoanal. Dial., 21:75-100. )脳科学者であり、分析家でもあるショアは精神分析的な知見がどのように脳科学的な素地を有しているかという問題を追及し、そこで右脳がフロイト的な無意識におおむね相当するという大胆な仮説を提出する。ショアが強調するのは黙示的な情動調節の重要性であり、その不調は第一に早期の関係性のトラウマ、すなわち愛着の問題に由来し、それが精神療法における主要なテーマになるであろうということである。
このようなSchoreの主張は脳科学と愛着の問題、そしてトラウマの問題を一挙に関連付けるとともに、右脳の機能との関連で、Freudにより提示された無意識の概念の重要性を、ほかのどの関係論者よりも強調しているという印象を受ける。脳科学という文脈を通して、現代的な精神分析はもっともFreudに近づくともいえるであろう。