しかし一冊分の素材は結構骨が折れるなあ。まだ半分にも行っていない。
孤高であることも、彼らをナルシシストに見せる
アスペルガー症候群を有する人の中には、特殊能力を有するわけではなく、本人も傲慢に他人に接しているつもりもなく、自分なりに一生懸命生きていても、自己愛的に見えてしまう場合がある。以下に、本当は自己愛的ではないにもかかわらず、そう見えるアスペルガー者の人たちについて書いてみる。
アスペルガー症候群という概念が一般の人の間に、ある意味で過剰なまでに浸透したのはこの20年くらいであるが、それ以前には、彼らはどのように扱われていたのか? 一部の人たちは「ちょっと変わった人」「変人」「オタク」などと呼ばれ、別の一部は、一種の「パーソナリティ障害」という見方をされていた。その中でも代表的なのが、いわゆるスキゾイド(ないしシゾイド)・パーソナリティ障害である。
スキゾイド・パーソナリティの概念には古い歴史がある。少し古い精神医学の教育を受けた私のような人間には、むしろ「分裂気質」という呼び方がピッタリくる。「分裂」とは「精神分裂病」、すなわち現在統合失調症と呼ばれている深刻な精神の病気に通じる概念であり、一部の精神科医はこの分裂気質こそが統合失調症の病前性格ではないかと思われていた。分裂気質とは、孤独を好み、あまり対人関係で感情をあらわさない、孤独な人たちの性格傾向を指したものである。この人を寄せ付けない、自分の世界で完結する傾向が統合失調症の世界に近いと考えらえていたのである。
ここでスキゾイド・パーソナリティの特徴について、例によって「バイブル」であるDSM-5に掲げられた診断基準を見てみよう。
ここでスキゾイド・パーソナリティの特徴について、例によって「バイブル」であるDSM-5に掲げられた診断基準を見てみよう。
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家族を含めて、親密な関係をもちたいとは思わない。あるいはそれを楽しく感じない
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一貫して孤立した行動を好む
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他人と性体験をもつことに対する興味が、もしあったとしても少ししかない
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喜びを感じられるような活動が、もしあったとしても、少ししかない
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第一度親族以外には、親しい友人、信頼できる友人がいない
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賞賛にも批判に対しても無関心にみえる
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情緒的な冷たさ、超然とした態度あるいは平板な感情
このようにスキゾイド・パーソナリティ障害を有する人々は、生き生きとした感情があまり感じられず、人との関係によるぬくもりを知らず、または好まない人というイメージが感じられるだろう。いわばロボットのような人たち、スタートレックのミスター・スポックのようなイメージを思い浮かべればいいだろう。
このスキゾイド・パーソナリティに該当する人たちとアスペルガー障害とはどのような関係があるのか。その詳細は不明ながらも、現在ではスキゾイドと従来診断されてきた人々の中にかなりアスペルガー障害が混じっていたという可能性が指摘されている。もちろんパーソナリティ障害と発達障害とは概念の成り立ちが全く異なる。パーソナリティ障害は人格の成り立ちであり、成長とともに徐々に形成され、思春期以降になりおおむね固まるものと考えられる。他方アスペルガー障害は基本的には生まれつきのものである。しかしアスペルガー障害における対人関係上の問題が社会生活上の支障をきたすようになるのは、職場での活動を通してであり、それ以降になって初めて精神科を訪れ、そうとわかる場合が少なくない。それまでは学校では受身的な立場を守り、学業もそこそこにこなしている場合にはあまり明確にそれと同定されないという事情もある。結局幼少時にそれと診断されることがなく経過してきたアスペルガー障害の多くは、成人になってスキゾイドパーソナリティとして分類されてきたという可能性があるわけだ。
ここまでスキゾイドパーソナリティとアスペルガー障害の重複部分について、あるいは相互の混同について論じてきたのは、このスキゾイド様の表出、つまり対人接触を苦手とし、人と会ってもニコリともせず、マイペースで事を進めようとするという様子が、見方によっては典型的なナルシシストと誤解されかねないということがあるからである。一つ例を挙げてみよう。
このスキゾイド・パーソナリティに該当する人たちとアスペルガー障害とはどのような関係があるのか。その詳細は不明ながらも、現在ではスキゾイドと従来診断されてきた人々の中にかなりアスペルガー障害が混じっていたという可能性が指摘されている。もちろんパーソナリティ障害と発達障害とは概念の成り立ちが全く異なる。パーソナリティ障害は人格の成り立ちであり、成長とともに徐々に形成され、思春期以降になりおおむね固まるものと考えられる。他方アスペルガー障害は基本的には生まれつきのものである。しかしアスペルガー障害における対人関係上の問題が社会生活上の支障をきたすようになるのは、職場での活動を通してであり、それ以降になって初めて精神科を訪れ、そうとわかる場合が少なくない。それまでは学校では受身的な立場を守り、学業もそこそこにこなしている場合にはあまり明確にそれと同定されないという事情もある。結局幼少時にそれと診断されることがなく経過してきたアスペルガー障害の多くは、成人になってスキゾイドパーソナリティとして分類されてきたという可能性があるわけだ。
ここまでスキゾイドパーソナリティとアスペルガー障害の重複部分について、あるいは相互の混同について論じてきたのは、このスキゾイド様の表出、つまり対人接触を苦手とし、人と会ってもニコリともせず、マイペースで事を進めようとするという様子が、見方によっては典型的なナルシシストと誤解されかねないということがあるからである。一つ例を挙げてみよう。
事例)
21歳の女子大生Hさんは、最近付き合いだしたという24歳の男性I君との関係について語ってくれた。I君は某有名大学の大学院の数学科に籍を置き、日々勉学と研究の毎日であるという。これまでに数回デートしたことがあるが、しかしその様子がどうも普通の男性と異なる気がし、相談に来たという。Hさんは天真爛漫な女子大生で、可愛らしく愛嬌もある方だが、中学、高校の間、放課後は近所の塾に通いつめて受験勉強に励んでいたこともあり、男性経験は全くない。大学入学後に、初めての学園祭で声をかけてきたのがそのI君だというが、本当は自分が彼を好きかどうかもよくわからなくなっているという。しかしこれまでの短い付き合いから、I君の振る舞いがとても傲慢で、これから一緒にやっていけるのかが心配だそうだ。ちょうど本で読んだ自己愛パーソナリティに、I君が典型的に当てはまる気がし、ますます一緒にやっていける自信がなくなっているという
筆者も話を聞いた最初のうちは、I君は典型的なナルの自己チュー人間だと思っていたが、話を聞いていくうちに、少し違う側面が見えてきた。彼はおそらく自分の持つアスペルガー傾向のせいで、Hさんにそう思われているらしいということがわかったのである。
I君は有名国立大に現役合格し、数学科の大学院に進むほどの成績優秀な青年である。これまで女性とのお付き合いはないが、たまたま訪れた女子大の学園祭でHさんに一目ぼれをし、決死の思いで声をかけたらしい。I君のデートの場所の選び方や、そのぎこちない振る舞いから、彼が全く不慣れな状況で四苦八苦している様子が伝わってくるしかしHさんももともと男性経験がないので、そのようなI君の側面を「男性は皆こういうものなのか」と受け取っていた様子がある。Hさんの話によると、I君はとにかく大学院での研究が優先で、デートの時間も授業の合間の一時間半などを指定してくる。時間が来ればそそくさと大学に戻るそうだ。服装や髪形などにも相当無頓着そうで、いつもほとんど同じアイロンの当たっていないシャツを着てくる。デートでは難しい数学の理論について一方的に話されてしまい、Hさんは全くついていけない。またメール交換なども何時も決まりきった短文でしか返事をしてこない。Hさんがバレンタインデーに手作りチョコをプレゼントしたが、ちょうど次の月に迎えたHさんの誕生日に、I君からは何の誘いもなく彼はどうやらHさんが様々に期待したり気をもんだりしていることに全く無頓着のようであった。大学院のレポートの期限が近づくと、直前になりデートをキャンセルするくせに、一度は別れ際に突然ギラギラした目でキスを求めたり体を触ってくることがあり、まったくムードを大切にしてくれないI君の様子にひどくがっかりしたという。
Hさんは初めての恋人でもあり、また数学科で将来は学者になるというI君の優れた頭脳や知性を神秘的に思う一方では、「とても強引で自分のことしか考えない人」、としてI君をとらえているようであった。彼女の頭には、発達障害ということが発想になく、その可能性を説明することで、少しはI君の振る舞いを理解した様子であった。
筆者も話を聞いた最初のうちは、I君は典型的なナルの自己チュー人間だと思っていたが、話を聞いていくうちに、少し違う側面が見えてきた。彼はおそらく自分の持つアスペルガー傾向のせいで、Hさんにそう思われているらしいということがわかったのである。
I君は有名国立大に現役合格し、数学科の大学院に進むほどの成績優秀な青年である。これまで女性とのお付き合いはないが、たまたま訪れた女子大の学園祭でHさんに一目ぼれをし、決死の思いで声をかけたらしい。I君のデートの場所の選び方や、そのぎこちない振る舞いから、彼が全く不慣れな状況で四苦八苦している様子が伝わってくるしかしHさんももともと男性経験がないので、そのようなI君の側面を「男性は皆こういうものなのか」と受け取っていた様子がある。Hさんの話によると、I君はとにかく大学院での研究が優先で、デートの時間も授業の合間の一時間半などを指定してくる。時間が来ればそそくさと大学に戻るそうだ。服装や髪形などにも相当無頓着そうで、いつもほとんど同じアイロンの当たっていないシャツを着てくる。デートでは難しい数学の理論について一方的に話されてしまい、Hさんは全くついていけない。またメール交換なども何時も決まりきった短文でしか返事をしてこない。Hさんがバレンタインデーに手作りチョコをプレゼントしたが、ちょうど次の月に迎えたHさんの誕生日に、I君からは何の誘いもなく彼はどうやらHさんが様々に期待したり気をもんだりしていることに全く無頓着のようであった。大学院のレポートの期限が近づくと、直前になりデートをキャンセルするくせに、一度は別れ際に突然ギラギラした目でキスを求めたり体を触ってくることがあり、まったくムードを大切にしてくれないI君の様子にひどくがっかりしたという。
Hさんは初めての恋人でもあり、また数学科で将来は学者になるというI君の優れた頭脳や知性を神秘的に思う一方では、「とても強引で自分のことしか考えない人」、としてI君をとらえているようであった。彼女の頭には、発達障害ということが発想になく、その可能性を説明することで、少しはI君の振る舞いを理解した様子であった。