2015年6月6日土曜日

米国におけるレジデントトレーニング (5)


ここで私が体験した痛恨の失敗談をご紹介します。私はトレーニング中のトラブルはしばしば患者との間ではなく、スタッフとの間でおきるという印象を持っています。つまりそれは上司だったり、同僚であったり、場合によっては看護スタッフだったりします。
 ある日の当直のことでした。オクラホマ州の精神科レジデントとして、私は3つのERを訪れる精神科の患者のアセスメントをカバーすることになっていました。(3つのERとは、軍人病院、オクラホマ総合病院の成人部門、小児思春期部門の3つのERで、距離的には歩いて4分くらいでつながっています。)通常は当直をすると大体一晩に、2人くらいはアセスメントをしなくてはなりません。運が良ければだれも訪れず、ゆっくり本でも読んで過ごしていられますが、数人の入院などがあれば、ほぼ徹夜になる、という賭けのようなハラハラする夜です。入院が必要な患者のアセスメントは、どんなに頑張っても2時間近く一人のウォークアップに取られます。5人の入院で徹夜は必至という状態です。当時はケータイはありませんでしたから、ペイジャーという一種のポケベルを持ってメディカルセンター内に待機します。
 その日は夕方からVAで一人の入院があり、ラッキーだったらもう休めるかな、と思っていた矢先、小児部門のERから、二人の精神科の急患のために呼び出されました。やれやれと夜遅くなる覚悟を決めてアセスメントを開始し二人目を終える直前に、今度は成人部門のERからおそらく入院の必要な患者のアセスメントの連絡が入ってきました。もう夜の11時を回っていたと思います。やれやれ、大変な夜だ、これはどう考えても睡眠時間は34時間だなと思っていた時に、思春期部門もナースから無情にも、もう一人の患者が運ばれてきたと告げられました。一晩に5人の患者。もうたくさんだ。ともかく私は成人部門に行ってからまた小児部門に引き返さなくてはなりません。ERのアセスメントは当然来た順番で行われるわけです。私は新たな患者が来たことを告げたナースに対して決して面白い顔をせずにそこを立ち去ったはずです。口ではもごもごと「わかった。でも成人部門の患者が終わってから、戻ってきてみることになります。…」
不幸なことがあると、私たちは周囲もそのことを察してくれると勝手に期待します。しかしそのナースは私の訛りの混じったもごもごを聞き取らなかったのでしょう。さて私は成人部門のERで一人の患者を入院させ、夜中の2時過ぎに小児部門に戻ってきて残っていた一人の思春期の患者を診ました。すべて終わったころにはもう明け方でした。私はそれなりに疲労感と充実感を感じながら、仮眠をとる暇もなく翌日のトレーニングプログラムに参加したわけですが、数日して私はナースからクレームをつけられていることを知りました。それは例の小児部門のERの看護師からのもので、「岡野医師は、ERに患者が来たと告げられながら、診察をすることなく立ち去った」と言いました。その看護師は、私が新たな患者の到着を告げられながら、帰ってしまったと判断したのです。その看護師は11までのシフトだから、それから帰ってしまったのです。私は一生懸命事情を説明しましたが、私の看護師とのミスコミュニケーションにも問題があったということで、3か月の観察期間を設けられることになりました。やれやれ、というところです。