米国におけるレジデントトレーニングとスーパービジョン
私の発表は純粋に体験に基づくものですし、20年以上前の話です。現在行われているものとは幾分異なるかもしれませんので、ご了承ください。ただし今回調べた限りでは、現在のトレーニングもあまり変わっていないという印象です。およそ四半世紀、米国でのレジデントトレーニングの形式は、一定のフォーマットを守っているのです。そこで私の体験をお話しすることで、大体の感覚はお伝えできるのではないかと思います。
これは私と同時期にアメリカの同じトレーニング機関でフルトレーニングを行った田宮聡先生の感想でもあるのですが、アメリカでのシステムは日本に比較してはるかに整っていて、私はいったい日本で何をやっていたのか、と思うことがしばしばありました。私は当時日本で精神科医になり、5年の経験を積んだ時点でアメリカのレジデントトレーニングに参加したわけですが、精神科医としての修業を一からやり直したという実感があります。私が研修医時代に所属していた大学病院の精神科はそれなりに整ったプログラムを提供してくれたことを思うと、米国のトレーニングはかなりのレベルの高さを物語っていたと言えると思います。ただし私の体験したオクラホマシティのトレーニング(一年目)とメニンガー・クリニックのトレーニング(2年目~4年目)を比較する限りはそのトレーニングのレベルにもかなりの格差があることも事実であろうと思います。
またアメリカのレジデントトレーニングは、おそらくその終了後に待っている専門医(ボード認定医)に向けての準備期間という意味を持つことで、その意義がより深くなると思います。将来資格試験を受けるためにトレーニングに励むのと、それを目指さないとでは意味はずいぶん違ってくるからです。
ちなみにアメリカのレジデントトレーニングを開始するためには、先ずマッチングプログラムにエントリーしなくてはなりません。その為にはいくつかの試験にパスしている必要があります。その頃はECFMG そしてそれを合格した上で受けられるUnited States Medical Licensing Examination (USMLE). 当時はFLEX(Federation Licensing Examination)I,IIという名前でした。私は何度も落ちたのでよく覚えています。ECFMG自体は世界各地で受けられますが、USMLEは米国に足を運ぶ必要があります。私は大学を卒業するまでは渡米するという頭がありませんでしたが、確かにクラスでは卒試や国家試験の勉強と同時にECFMGの受験の準備をしている仲間がいました。しかし試験の傾向としてはかなり異なるので、これはなかなか難しいのではないかと思います。私は卒後3年くらいからECFMGにトライするようになりましたが、一番の難関は基礎医学の部分で、それこそ薬学や解剖学や生理学をやり直す必要がありました。これらに受かったのは、確か私がECFMGに挑戦して7回目くらいだったと思います。臨床部門の試験は早々と受かっていましたが、基礎医学の方はそれなりに時間を掛けて準備する必要があります。