2015年5月9日土曜日

抄録書いた(ナンの話だ)

精神分析における解離-大文字の「解離」理論にむけて
 精神分析理論と解離との関係はフロイトにさかのぼるが、フロイトはブロイラーにより見出された解離現象(類催眠状態)の概念には満足できず、欲動論とセットとなった抑圧理論を重んじた。そこには同時に当時の「ヒステリー患者」の多くがこうむっていたであろうトラウマに関する軽視ないしはその可能性の棄却もあったといわれる。フロイトのそのような考え方については、同時代人であるフェレンツィも、また英国の中間学派のフェアバーンやウィニコットやバリントも意見を異にしていた。彼らは解離の概念を精神分析の文脈で用いたが、その後解離の概念が重視されるには至らなかった。さらには時代が下ってサリバンもトラウマ理論と結びついた解離の機制に着目したが、やはり十分な評価を得られなかった。このようにトラウマ―解離理論は精神分析の主流からは切り離された形で進展したが、近年になり解離に着目した精神分析理論が新たに提唱されつつある。フィリップ・ブロンバークやドンネル・スターンらによって論じらる解離は、抑圧とは異なる次元での人間の心のあり方を捉えている。しかし彼らの論じる、いわゆる「弱い解離」は、解離性同一性障害に見られるような深刻な病理の説明図式としては、今一歩不十分であるという印象を受ける。発表者としては、「強い解離」、ないしは「大文字の解離 Dissociation」に関する分析的な解離理論が必要であると考えている。