2014年12月1日月曜日

発達障害と心理療法 (8)


逆転移の問題

 さて冒頭の「思いやり」の問題に戻ってきた。私たちはクライエントの思いやりのなさからくるさまざまな感情をどのように扱うべきだろうか?おかしな、理不尽なテーマであることはわかっている。私たちはサービスを提供する側だ。なぜされる側に思いやりを求めなくてはならないのだろうか?それはそうなのだが、まあそのような議論も必要だということにしておこう。本来は逆転移の多くは治療者が持つべきでない感情なのであり、しかしそれを検討することがより良い治療には必要だということは、長い精神分析学の歴史が教えてくれたことなのだから。
 一つ事実としてあることは、実際に客としてサービスを受けるとき、私たちは相手に結構気を使っているものなのである。サービスを受ける側だって、気持ちよく受けたい。それに相手の機嫌を損ねることでより良いサービスを得られなくなってしまうという危険性もある。タクシーの運転手さんにだって気を使っておかしくない。乱暴な運転をされて事故にあわされては困る。医者となるともっとそれは言えるかもしれない。ある意味では相手はこちらの生殺与奪の件を握っているのだ。医者を怒らせることで診断が変わったり、治療の手を抜かれるということはないだろうが、それにしても喧嘩をしていい相手ではない。というより医者の場合は最初から威張っていて、患者が気を使わないと怒られるということもあるだろう。おかしな話だが。
  私が何を言いたいかというと、サービスを提供する側も、このカスタマーからの気遣いを「込み」で仕事が出来ているということは少なからずあるということだ。サービス業とはある意味で過酷なものである。ある意味では頭を下げ続けるのがその仕事だからだ。そこで相手からの気遣いを受けてこちらの緊張も緩み、サービスを提供する側の喜びも感じる。カスタマーから、受けたサービスへの感謝を告げられると、その喜びはピークに達したりする。外科の先生などは公言したりする。「患者さんからの『ありがとう』を支えにして毎日の激務に耐えています。」精神科医などにはあまり言えない素直な言葉だ。
  さてそこにこちらの気持ちをあまり汲んでくれないお客様が表れる。むしろ「どうしてもっとしっかりやってくれないのか!」というお叱りを受ける。他のお客様だと「共同作業」というニュアンスで行っているものが、突然法廷で争っている敵同士の関係に思えたりする。これはつらく厳しい作業となる。
そのようなカスタマーとの関係を維持するためのいくつかのポイントを考えてみよう。
一つには、決して一人での戦いを続けないことであろう。職場の同僚と必要に応じて意見を交わしあうこと。そして日常生活に潤いや癒しを持つことであろう。
二つ目は治療者として無理をしないことであろう。通常は一セッションだけでも非常に精神的な消耗を感じる場合が多いため、セッションを頻回にもつこと、ないし一日に同様のカスタマーを何例も持つことは難しいかもしれない。
 三つ目には適正なチャージを行うことである。「仕事と割り切る」ことが非常に重要となるが、そのためには正当な報酬が伴わないと、それが出来ない。

 ただしこの三つ目に関しては、例えば学生美容室などでの対応に問題を生むことになる。通常は料金がかからないからこそ、そして「自分はカットをしてもらえる権利を持っている」と思っているからこそ、美容師の側が被虐的に難しい関係に耐え続けるという事態も生じてくるのではないだろうか。そうなると四つ目も可能性として必要となる。それは美容構造を決めて、つまりこちらが「仕事と割り切る」事が出来るような時間や頻度を設け、それに見合わないカスタマーにはご遠慮いただくというわけである。少し暗い毛が伸びても命に別状はないかもしれない。
 この4番目は、実は大学美容師がバーンアウトをしないためにも必要なことかもしれない。

 最後は大学の学生美容室の話になった(そんなものあるか!!)