2014年10月9日木曜日

脳と心(9)

というところで最も大事なところ。脳科学が、いかに私たちの臨床を変える可能性があるのか。
これまでの論述をまとめると、

1.  脳の動きの可視化は進んでいる。RTMRI(リアルタイム機能的MRI)など。何しろ拍動する心臓まで撮影してしまうほどである(心臓MRI 。これらの技術の発展により、脳の様々な部位の活動は継時的に追うことができるようになってきている。それらが私たちに示しているのは、要するに「患者さんの言葉は信ぴょう性がある」ということになろう。
 例えば催眠やプラセボ効果などにより、身体的な痛みが軽減ざれているとしよう。「先ほどより痛みが少ないと感じます」と患者さんが言う。私たちはこのようなとき、「患者さんがそう思い込んでいるだけだろう」と考えがちである。しかし実際に脳内麻薬物質が放出されていて、痛みが軽減されていることが知られている。
 同様の事情を解離性の患者さんについて考えてみよう。急に話は飛ぶが。ある患者さんはこんなことを言う。「私の別人格Bさんは父親を憎んでいるんです。でも私(主人格A)は特にそういうことはありません。まあ多少不満はありますけれど。」
 このような患者の発言を、精神分析家でなくても額面通りに受け取ることは少ないだろう。「父親に対する憎しみを抑圧しているのだ。」となる。その場合Aさんの時には父親に対する憎しみが実際強くはないということを脳画像上で示すのはさほど難しくないであろう。たとえばAさんの時に父親を思い浮かべた時の扁桃核の興奮の度合いを、Bさんの時のそれと比べればかなり低いという結果が得られるであろう。すると「私は父親を憎んでいない」という言葉が、否認や抑圧ではない場合が少なくないことが理解されるであろう。
ただしだからと言って患者さんが話している最中にポリグラフによる反応を見ることが進められるわけではない。しかし力動的な治療者が一般的に持つ傾向である、患者の抵抗や防衛を常に考慮するという姿勢が今後ある程度改まる可能性があるのではないか。