2014年10月10日金曜日

脳と心(10)

1. ネットワークとしての心の在り方をさらに追及すると、それはモジュール的な心の在り方ということになる。脳は広大なネットワークの集積であり、そこに意識と無意識を明確に区分するような障壁などは存在しない。意識と無意識の範囲は相対的で、浮動する。ある事柄に注意を集中することで意識の及ぶ範囲は増大するし、注意の程度が弱まるにしたがって無意識の範囲が広がる、という風に。
 ただし心の在り方はいくつかの単位を持ち、それらが同時並行したり、その比重が推移したりするという様子は見られる。そしてその様子を最も顕著な形で示すのが分断脳の実験や解離性障害である。これらの事例は脳の在り方をかなり如実な形で示している。すでに分断脳の知見から、右脳と左脳が同時に活動していることが知られている。両者は異なる情報の処理を行い、互いを知らないという驚くべき振る舞いを示し、それはおそらく人間の心が少なくとも二つの脳の働きを同時進行的にもちつつ、脳梁を通じての情報交換により、それらを矛盾することなく体験するという仕組みが存在することを示唆している。
 また多重人格の存在は、現代的なポリサイキズムの復権を呼びかけているようだ。解離性障害により生じる問題は、身体運動機能と知覚機能、言語機能などのうちどれがが特異的に欠落するという様子を示している。(Bask model, BG Braun, 1988
 日常的な心の在り方は、通常は多重的 multiple な在り方ではなく多面的 multi-faceted な在り方を示している。たとえば親的、子供的、大人的な在り方は状況に応じてどれか一つが前景に出ることがあるが、それらは互いに健忘を生じさせないというという風に。