2014年10月7日火曜日

脳と心 (7)

(ちなみに以下の部分は過去のブロクの自己剽窃(こんな言葉があると最近知った!恐ろしい。)に近い。

脳と自己の理論
結局は出てくるのがアラン・ショアの脳科学的な見地からの自己の理論ということになる。
ショアは脳の発達とは自己の発達であり、それはもうひとつの自己(典型的な場合は母親のそれ)との交流により成立する、と主張する。そしてその中でも最初に発達を開始する右脳の機能が大きく関与している。
ショアは、自己の表象は、左脳と右脳の両方に別々に存在するという考えがコンセンサスを得つつあるという。前者には言語的な自己表象が、後者には情緒的な自己表象が関係しているというわけだ。この右脳の自己表象とは、フロイトの無意識や、非明示的な情報処理とも関係しているということだ。さてこのままだと右脳の自己というのはなにやら抽象的でつかみどころのないものなのだが、一説によると右脳の非言語的な自己を支えているのが、情緒的に際立った体験と記憶であるというHappaney, et al 2004Happaney, K., Zelazo, P.D., & Stuss, D.T. (2004). Development of orbitofrontal function: Current themes and future directions. Brain and Cognition, 55, 1-10.)。つまり具体的な体験や記憶がその右脳の自己のネットワークそのものということだ。そしてそれは身体的な自己の形成をもつかさどる。右の島前部 anterior insula や右の眼窩前頭皮質は、共同で意識化できるような内臓レベルでの反応を形成するという。それが自己の主観的な感情レベルの形成に貢献するのだCritchley,et al .2004Critchley, H. D., Wiens, S., Rothstein, P., Ohman, A., & Dolan, R . J. (2004). Neural systems supporting interoceptive awareness. Nature Neuroscience, 7, 189-195.)。自己、といってもその具体的な内容は、神経ネットワークであり、それは記憶により成立しているものだ。そしてそ野成長を阻害し、そのネットワークの成立を根底から揺るがす可能性があるのがトラウマ体験であるという。右脳の刺激によりさまざまな離人体験が引き起こされるというBlanke 2002)らの研究もそれに関係しているということになる。Blanke, O, Ortigue, S., Landis, T., & Seeck, M . (2002).つまり離人体験は自我を成立せしめる部位に対する直接的な侵害により生じる症状なのである。
Stimu lating i l lusory own-body perceptions. Nature, 419, 269-270.

この、自己イコールネットワークである、という理解は主流になりつつあるらしい。それはジュリオ・トノーニの理論とも呼応している。そしてそのネットワークがいかに形成されるかということに対して、直接的な影響を与えているのが母子関係ということになる。すると無意識は、ネットワークのうち、意識の成立に貢献していない部分といえるだろう。トノーニの説に見られるように、ネットワークは、それが一定の情報をやり取りしていない場合には「覚醒」しない。それはちょうど深睡眠の最中のように意識が存在せず眠った状態なのである。心を意識とそれ以外に分割するという図式は、構造論に至る前のフロイトの図式と同じことになる。ネットワークモデルは、いわばフロイトの局在論まで立ち戻るといってもいい。その代わりその無意識と呼ばれる部位は、フロイトが想定したものよりはるかに広範囲にわたった活動を行うことになるだろう。